「かつての“栃若”は現役時代よきライバルで、親方になってからも栃錦の春日野理事長が若乃花の二子山に理事長職を譲り、自分は相撲博物館の館長に就任した。しかし、ぎすぎすした今の時代、自分さえ良ければいいと考える人が多い。とてもそんな美談は望めません」(ベテラン相撲記者)
そもそも北の湖理事長は、野球賭博問題などで角界が揺れる中、就任した放駒前理事長からの、「相撲を未来永劫、残すことが大切」との言葉を引き継ぎ、'12年に理事長に復帰した。
「今回の争点は、相撲人気の回復。どうやって人気を盛り立てられるかです。北の湖理事長は十分やりましたが、彼は得体の知れない人物を協会に入れて保身を図っている。この際、身を引いて後進に道を譲るべきだと思います。では、九重さんがやればいいかというと、彼自身も順番からいくと、“次はオレか”ということでやる気マンマンですが、これといって人気回復に策があるわけではない。言ってみれば、どっちもどっちなんですよ」(相撲ジャーナリスト・中澤潔氏)
ことに九重親方の場合、現在相撲解説者の北の富士から部屋を継承する際、それまでいた部屋付の親方全員が他の部屋に移籍してしまったほどの“嫌われ者”とされる。
「協会内には、九重親方が理事長になったら協会はどうなってしまうのか? と心配する人が多い。実際、去年の役員選挙も最下位当選でしたしね」(前出・ベテラン相撲記者)
こうした不評を本人も気づいてか、最近は弟子の指導でこれまでとは違った面を打ちだしているとか。
「稽古を見に行くと、熱心に弟子の指導をして、懇々と教え諭す。本場所の土俵でそれができると、わざわざスマホでメールして褒めちぎるんです。少しでも若者の心をつかんで評判の底上げをしようと必死です」(元力士)
一方の北の湖理事長はどうか。やはり気になるのは、“得体の知れない人物”についてだ。
相撲関係者が言う。
「『週刊ポスト』が報じた、協会が某パチンコメーカーとライセンス契約を結んだ際に“裏金”が手渡されたとされるX氏。彼は北の湖理事長の側近であり、協会の危機管理政策顧問でもある。経営コンサルタントの会社を設立した人物で、スポーツ界のみならず、政界にも人脈があるようです。真偽は定かではないが、松井秀喜のマネジメントをやったことがあると、協会ではいわれている。とにかく弁舌さわやかで行動力があり、10年ほど前に北の湖理事長が女性スキャンダルを起こしたときも鮮やかに収めた。それで北の湖理事長の信頼を得て、今では国技館に一室を与えられているほどです」
ヤリ手であることから、協会はこの人物を“影の理事長”とまで呼んでいるという。
「去年の秋場所のことでした。国技館内で見慣れない業者がタコ焼きのワゴンサービスをやっていたんです。国技館で商売するには『国技館サービス』という茶屋が出資する会社を通さなければならないのですが、X氏が窓口になっているというので問題になったことがありました」(前出・相撲関係者)
これが事実であれば、何者かが窓口を通してカネを受け取っているということ。つまり、これまたパチンコのライセンス契約問題同様、大問題なのだ。
「ベテラン親方は、『お前、何の権限があってそんなことやっているんだ!』と国技館の中で大声で怒鳴っていることもあった。でもね、X氏という男も大したヤツで、屁とも思っていないんですよ」(前出・元力士)
だからこそ北の湖理事長に見込まれ顧問にも抜擢されたというわけか。
では果たして、今の相撲協会に理事長にふさわしい人物はいるのか。
再び中澤氏が続ける。
「一連の不祥事の際、協会を救ったのは放駒親方という一般常識に一番近い人でした。今の協会を見ると、それに当たるのが九重親方の弟弟子だった八角親方(元横綱北勝海)です。彼は広報部長として、アメリカのプロスポーツ興行はどんな工夫をしているのか、現地に視察に出掛けた。それが一般社会では普通なのですが、協会でそれができるということが、今の相撲界では大切ですよ」
とはいえ、兄弟子を差し置いて理事長に立候補することなど、到底無理な話なのかもしれない。
「北の湖理事長の再選はほぼ間違いない情勢だが、健康不安は否めない。一方、九重親方は理事にすらなれるのか微妙です。いずれにせよ、協会はX氏の存在を無視はできない。結局、どう転がっても北の湖理事長の影響力が絶たれることはないでしょう」(前出・相撲関係者)
大横綱が名理事長になるとは限らない。