また、前立腺肥大がベースにあって、尿の溜まった量とは関係なく筋肉の収縮で尿を排出する『過活動膀胱』の頻尿もある。いずれも最近、中高年に増えている病気で、しっかりしたチェックと注意が必要だ。
米国の医療機関の調査結果では、40代の約20%、50代では約40%、60代の約70%に前立腺肥大症が見られたという。加齢とともに増加する病気だが、40代の中年者でも「まだ若いから大丈夫」と安心はできない。
厚生労働省の『国民生活基礎調査』(平成20年患者調査)では、'87年に13.4万人だった前立腺肥大症が約20年後の'08年に44.2万人。受診しない潜在患者を含めると200万〜300万人と推測される。50代男性の場合、2人に1人は前立腺が肥大していることになり、中には人知れず排尿障害に悩んでいる人もかなりいるとみられている。
前立腺は男性特有の臓器である。精子に栄養を与える前立腺液を分泌して精子の生命活動の源泉になっている。膀胱のすぐ下に位置し、中心部を尿道が通っているので、肥大すると尿道が圧迫され、尿が出にくくなる。
しかし、なぜ肥大するのか。そのメカニズムについてはっきりしない面はあるが、男性ホルモンが発症の引き金になっているとの考え方が支配的だ。尿が出にくい閉尿状態が続くと「腎臓」の働きにも悪影が出る。早期発見、早期治療が肝要だと、と医療関係者は話す。
都内に住む小林さん(49)は、夜の頻尿に悩んでいたひとり。
泌尿器科を受診すると、結果は予想された通り前立腺の肥大だった。
「とにかくトイレが近い。しかも残尿感があるし、尿の切れが悪く、トイレの後に尿道に残っていた尿が水滴のように出て、下着を濡らしちゃうんです。尿の出も悪くなったみたいで、勢いがない。それでも先生に交感神経の働きを抑える薬を処方され、真面目に飲んでいるお陰で、前みたいな頻尿の回数が無くなって、夜も眠れるようになりました。ただ、QOR(生活の質)を変えるように言われ、今は取り組み中です」(小林さん)
また、自営業Aさん(55)も同じような症状に悩まされ、医療機関を受診した。ただ、小林さんとは違う病名の診断が出された。『過活動膀胱』である。
Aさんは、昼夜を問わずトイレに行く回数が多かった。それも突然、強い尿意を感じ、トイレに駆け込むという“尿意切迫感”に襲われる。頻尿、切迫性尿失禁症(我慢が出来ず尿を漏らす)も伴っていた。
この病気は蓄尿障害の一種で、尿を溜めているときに膀胱の筋肉(排尿筋)が勝手に収縮することで起こると考えられている。
この原因については神経系の病気など、諸説があるようだが、前立腺肥大症を主因とする見方が強い。理由は、前立腺の肥大化によって尿が出にくくなるため、排尿の度に何とか尿を出そうとする膀胱への負担が繰り返しかかり、膀胱の筋肉に異常が起きてしまうからである。
つまりAさんの場合も、膀胱が肥大し、前立腺の刺激に過敏反応をするようになり、「また行きたい」を繰り返し、過活動膀胱になってしまったようなのだ。
「医師には、一般的な前立腺肥大症の治療薬(α1遮断薬)を第一選択薬として処方されました。排尿障害や蓄尿障害も改善するということで飲み続けており、確実に良くなりましたよ。何より会社で打ち合わせ中に抜け出さなくて済むようになった事が嬉しい。夜の頻尿も見違えるように減りました」(Aさん)