「一般の人はあまり関心を持たれていないようですが、ご飯やパン、麺類など、糖質の多い我々の主食が、肥満、糖尿病、そしてさまざまな生活習慣病の根本要因なのです」
こう語るのは、生活習慣病の改善運動に取り組む管理栄養士・前田和美さんだ。
日本糖尿病学会も、糖質制限食を糖尿病治療の選択肢として取り上げ、昨年5月に開かれた学術集会では、「1日の糖質量は130グラムを目安にする」ことで合意している。
糖質は、炭水化物やイモ類などに多く含まれる。例えばご飯1膳の糖質量は約55グラム、6枚切りパンは1枚あたり約40グラムに上る。これで1食分の主食に換算できるが、これに副菜などおかず類を加えると糖質量は変わってくる。
「和食で使う砂糖やみりんなどの調味料にも注意が必要です。それに糖質以外に摂るタンパク質や脂肪の質も重要で、糖質制限食療法を試す際には、併せて考える必要がある」(同)
糖質の過剰摂取が続くと、インスリンを分泌する膵臓に負担がのしかかり、機能が低下。やがて血糖のコントロールができなくなり、糖尿病になってしまうのだ。
糖尿病治療では長年、カロリー制限食が基本とされてきた。しかし、カロリー計算が面倒くさい上、量も少なく続かない場合が多い。それに比べ糖質制限食は、糖質量を減らせばカロリーは気にしなくてもいい。
東京・白金の北里研究所病院では、'09年から、カロリー制限食療法が上手くいかない人に2週間、「教育入院」をして貰い糖質制限食を出した。また同じように、カロリー制限がうまくいかなかった患者24人を、再びカロリー制限食を試す人と糖質制限食を試す人で無作為に分け、6カ月間観察した。結果、糖質制限食を試した人のみ、血糖の平均値や中性脂肪、最低血圧の値が改善したという。
糖質食の中身は、糖質量の多い主食を抜く代わりに、主菜2品、副菜2品を出した。ある日のメニューは、黒ムツの田楽焼き、鶏肉と根菜の炒め煮、厚揚げと青菜の煮物、白菜のワサビ和えだ。
「味付けは薄くし、主食を摂らなくても満足できるようにしました。またメニューの中には、血糖値に影響を与えないことが証明されている油脂類に含まれる脂質や肉、魚介、大豆類などのたんぱく質も取り入れました」(担当の管理栄養士)
日本成人病予防協会の関係者も「米国の糖尿病学会もその有効性を認めており、患者さんの関心は高い。今後、多くの医療機関で広がるでしょう」と語る。
現在は北里のほかに慶応大病院や東海大病院などでも「昨年からカロリー制限ができない人に試したところ、血糖値や体重減に効果があった。今後、さらに症例を増やし効果をみていきたい」(東海大病院関係者)と、治療への導入に踏み切ろうと検討している。
糖質制限食を取り入れる動きは、食品業界にも広がりを見せている。日清製粉は、都内のラーメン店『麺屋武蔵』と協力し、低糖ラーメンやパン、ピザなどなどの開発を進めているという。
しかし、「糖尿病なんてごく一部の限られた人だけがなる病気。自分にはまったく関係がない」と思っている人も多いのではないだろうか。
現実には、糖尿病患者とその予備軍は年々、増え続けている。厚労省の調査によると、'97年に約1370万人だったのが、'07年には1.6倍超の2210万人に膨れ上がっている。つまり、日本人の6人に1人が糖尿病もしくはその予備軍という計算になる。もはや他人事ではないのだ。