しかし、渡辺恒雄球団会長の怒りは、すでにその1週間も前に沸点に達していたようだ。
「俺はもう(5月30日の誕生日で)87歳でね。先がないんだよ。巨人は永久でなきゃいかん。だけど今日の試合は何だ。なってねえよ、打てねえよ、全然」
こう取材陣に怒りの声を上げたのは、4安打完封負けを喫した5月28日のソフトバンク戦だった。このとき、背後から虎の足音が急速に聞こえてきていたこともあり、「(阪神に)負けんじゃねえか、巨人は」と、言わずもがなの一言。老会長の目には、今の原巨人はチームのテイをなしていないと映ったのだろう。
渡辺会長が“阪神優勝”を暗示したことで、巨人ナインの原監督離れも一気に加速。原巨人の頭脳部分は橋上秀樹戦略コーチが担っており、実働部隊を仕切るのは主将の阿部慎之助。両者は安田学園高校(東京)の先輩後輩にあたり、その絆は原監督の入り込める余地はないほど強い。
「これは開幕前から危惧されていたことなのですが、今の巨人は二分されています。一つは原監督が指揮する若手中心のグループ。もうひとつはWBCに参戦した阿部を中心とする主力勢で、昨季の日本一に貢献し、WBCにも貸し出された橋上戦略コーチを中心とした偵察部隊も含まれます。阿部と橋上コーチは侍ジャパンの監督を務めた山本浩二氏とも連携しており、もし仮に松井が来季助監督で復帰した場合、原監督の続投ではなく、松井監督へのつなぎとして山本氏を暫定監督に担ごうと描いていた。だから諸々のことを山本氏に相談しているのでしょうが、その山本氏の盟友で兄貴格なのが楽天の星野仙一監督。ある意味、原監督とも親しく、山本氏を通して阿部らの考えがわかる星野氏は、一番の巨人事情通といえます」(在京スポーツ紙記者)
特筆すべきは、その星野氏が『今季は阪神が逆転する』と読み解いていること。その延長線上に見えてくるのが、原監督勇退、松井氏監督就任のシナリオだ。
渡辺会長の「(阪神に)負けんじゃねえか」発言の翌日(29日)、星野監督も巨人、阪神の首位争いについて触れ、「阪神が逆転するやろ。理由は勢い。巨人は開幕の連勝で作った貯金で飯を食っているだけ」と歯切れよく話し、阪神優勝を予言した。交流戦真っただ中、スコアラー陣はセ・リーグ各球団を集中的に分析しており、その報告と山本氏からの情報も加味して、阪神優勝を結論付けたのだ。
球界に広い人脈を持つ星野監督のもとには、毎日のように情報が届く。巨人OBの解説者からもしかりで、「巨人ナインは原監督の今季限りを察知しており、松井監督に気持ちがシフトしている」といったナマの情報も届いているという。
「現在の巨人で原監督と心中してもいい、と思っている主力選手はまずいない。開幕前に代理主将を託された高橋由伸と甥っ子の菅野ぐらいのものでしょう。主将の阿部と共に侍ジャパンで戦った坂本、長野、内海、杉内、山口、澤村ら、ほとんどが団結して松井支援に回っている。渡辺会長は松井へ入閣要請したことを認めた上で『即、監督はない』と否定していますが、これを額面通りに受け取っている選手はいない。巨人のベンチ裏では、今シーズンで監督通算10年を終える原監督は一丁上がり、来季は松井監督のもとで“新生ジャイアンツ”が決定事項のように伝わっている。これではチームが一枚岩といかないのも当然。優勝など無理でしょう」(巨人OBの野球解説者)
もっとも原監督と親しい放送関係者によれば、原監督も足早な松井政権への流れは察知しており、同じ辞めるなら優勝して自らの意思で勇退の道を選ぶ考えだという。が、松井サイドから見れば、これほどはた迷惑な話はない。2年連続日本一となり、そのままバトンを渡されては優勝して当然、逃せば監督手腕を問われる。それよりは阪神に逆転優勝され、悔しさの中で引き継いだ方が始動しやすいからである。