森友学園や加計学園を巡る疑惑、閣僚の失言、自民党議員のスキャンダルなどが相次ぎ、一時は支持率が危険水域まで降下し内閣改造に追い込まれた安倍内閣。中でも今も引きずる加計学園問題で、前川喜平前文科事務次官の「官邸最高レベルの指示や総理のご意向の文言が内閣府の担当者から文科省に出され、それを文字化した文書は存在する」との爆弾発言は、政権を揺るがすに十分な材料となった。
「その前川発言が注目を受けたのと同時期、各メディアにマスコミ嫌いで有名な真紀子氏サイドから接触があり、“加計問題は安倍首相が元凶”とのコメントを方々に放ち続けていた。そこで“政治家は引退か?”と質問されると『私の最大の関心事は政治、それがDNA』と言う思わせぶりな発言を繰り返した。そんな矢先、かつて真紀子氏を破った長島氏が急逝したことから、出馬説が飛び交ったのです」(全国紙政治部記者)
真紀子氏と言えば、今も歴代首相で断トツの人気を誇る田中角栄元首相の長女。1993年の衆院選で初当選し、1年生議員で科学技術庁長官を務めるなど、政界デビュー時から大きな注目を受けた。
「真紀子氏はそのとき49歳で、38歳の安倍首相は同期。安倍首相の祖父である岸信介元首相の後継、福田赳夫元首相は、角栄氏と首相の座を巡り争った。2人は世代を越えてもこの“角福戦争”に因縁を持つライバル関係にあったのです」(同)
安倍首相は2000年の森内閣、翌年の小泉内閣で官房副長官に抜擢され、'02年には小泉首相の訪朝に同行し拉致被害者奪還で功績をあげて一躍脚光を浴びた。その後も自民党幹事長、内閣官房長官に就任。'06年に総裁選へ出馬し、52歳の若さで首相の座を射留める。
一方、真紀子氏も科技庁長官後は小泉内閣で外相に就任。両人とも競い合うように出世街道を超特急で駆け上がった。
「安倍さんが戦後生まれの初首相なら、当時は真紀子さんも日本最初の女性首相にならんばかりの勢いだった」(自民党ベテラン議員)
しかしその後、消えた年金問題や持病の潰瘍性大腸炎の悪化による退陣で一時挫折するも、'12年に奇跡の首相カムバックを果たした安倍首相に対し、官僚との対立で外相を更迭された真紀子氏は、秘書給与問題でつまずき議員辞職に追い込まれた。'09年には民主党に入党し文科相に就任したが、党が政権の座から滑り落ちると、真紀子氏も'12年の衆院選で先の故・長島氏に大敗。
「同期のライバル関係は完全に水が空き、安倍さんの圧勝。真紀子さんはそのまま政界から消えるものだとばかり思っていたのです。しかし、やはりしぶとい。好機を虎視眈々と狙い、安倍内閣の低迷を見て本人の言うDNAが疼いたんでしょう」(同)
新潟では昨年7月の参院選で、野党統一候補として出馬した森裕子氏が自民党現職の中原八一氏とデッドヒートを繰り広げ、2000票余りの差で勝利した。また、同年10月の新潟県知事選は民主・共産ほか野党連合の推薦を受けた米山隆一氏が、自民・公明・連合新潟推薦の森民夫元長岡市長に約6万票の差をつけ勝利している。
新潟県議会議員関係者が言う。
「森裕子氏と米山氏のため、真紀子氏サイドの地元関連企業などがフル稼働したと聞いています。真紀子氏はこの連勝で、自分が出馬する際の手応えをかなり掴んだのではないか。逆に自民は、改めて“田中軍団”の脅威を思い知らされることになった」
さらに、地元での相変わらずの真紀子人気とともに、全国では昨年から“角栄ブーム”が続く。
「各出版社から出される“角栄本”はいずれも好調で、それに乗っかって真紀子氏も今年3月に自著『父と私』を出した。政界においても、このブームに乗らない手はない」(同)
これらの好材料で出馬説がますます強まるのだが、実際に勝ち目はあるのか。新潟県政記者はこう語る。
「急逝した長島氏は新潟県中越地震で被災した旧山古志村(現長岡市)の最後の村長で、地元住民を守った英雄。これまでの有権者は、自民公認云々というより、その人物に1票を投じてきたという向きが強い。だから今、新潟5区で他の人となれば、やはり真紀子氏となる。安倍自民党の傲慢さへの嫌気も加わり、相当な追い風が吹くでしょう」
真紀子氏は8月22日、出演したラジオ番組で「内閣改造なんて必要はない。総辞職」と安倍政権をこき下ろし、補選出馬については否定しながらも、スポーツ紙の取材に「何が起こるか分かりませんよ」と煙に巻いている。
「安倍政権は3補選で負け越せば、確実に求心力が下がり、次の総選挙勝利が厳しくなる。であれば、補選に合わせ一気に解散総選挙もありだろう。ただ、そんな中で真紀子氏が出馬となれば厄介なことになる」(自民党関係者)
安倍首相にとって、またもやお腹が痛くなりそうな人物の登場となるか。