search
とじる
トップ > スポーツ > プロレス解体新書 ROUND2 〈A猪木vs藤原喜明〉 思惑が入り乱れた末の師弟対決

プロレス解体新書 ROUND2 〈A猪木vs藤原喜明〉 思惑が入り乱れた末の師弟対決

 「この1年半のUWFの闘いがなんであったかを確認するために、新日本に来ました」
 1985年12月、両国国技館のリング上から、前田日明のあいさつとともに新日本プロレス復帰参戦を表明したUWF。翌年明けからアントニオ猪木への挑戦権をかけたUWF勢によるトーナメント戦が始まり、これを勝ち上がったのが藤原喜明であった。

 猪木への挑戦者決定戦となった藤原vs前田。その結着のゴングが鳴らされた瞬間、会場は低いどよめきに包まれた。そもそもどちらが勝ったのかが判然としない。
 マットに伏せ倒れているのは藤原だが、一方の前田も脚を引きずり顔をしかめている。結果、レフェリーにより勝ちを告げられたのは藤原であった。

 テレビ解説の山本小鉄は、「藤原に足首を極められた前田がギブアップした直後、藤原は前田のスリーパーで締め落とされた」と、不透明な結末への補足説明をした。だが、勝った藤原への歓声はまばらで、それよりも前田敗退への落胆の溜息が会場のあちこちから漏れ聞こえることになる。
 この試合が前田の地元大阪で行われたため、というばかりではない。当時、選手の大量離脱など暗い話題の多かった新日において、前田はファンの“希望”だったのだ。

 この頃、新日の常連外国人といえば、すでに猪木とは格付けの済んだ感のあったディック・マードックにマスクド・スーパースター。エリック兄弟はまだ若く、猪木よりも藤波辰爾らのライバルと見られていた。
 唯一、猪木と完全決着がついていなかったのはブルーザー・ブロディだが、前年暮れのMSGタッグリーグ決勝をボイコットし、新日離脱が濃厚視されていた(以後、いったん新日に復帰した後、再度離脱して全日本プロレスへ)。
 そんな中にあって、前田は猪木の敵役として、また次代のエースとしても、その活躍が渇望されていた。しかし、その期待は藤原の勝利により、先送りとなってしまった。

 そうして2月に行われた猪木と藤原の試合は、名目上は“新日とUWFの頂上決戦”とされたものの、かつて両者が師匠と付き人の関係にあったことはコアなファンならば先刻承知。そのため当初から、藤原の下剋上を期待する声は薄かった。
 猪木もまた、あくまでも自分が格上であることを意識した試合運びで、藤原のアキレス腱固めには「極める角度が違う」と上から目線のアピール。さらには局部への蹴りや顔面へのストレートパンチとやりたい放題の末に、藤原をスリーパーで締め落としてみせた。

 これに怒ったのがセコンドの前田で、勝ち名乗りを上げる猪木に駆け寄ってハイキック一閃。マットに崩れる猪木を尻目に、「猪木なら何をしても許されるのか!」と吐き捨てたその姿は、プロレス新時代の到来を予感させるに十分だった。
 「この時点で新日は、猪木vs前田を将来のドル箱カードとして見据えていました。そのことはもちろん猪木も納得済みです。そうでなければ前田のキックを食らったりはしない。次につながるストーリーがなければ、ただの蹴られ損ですから」(当時の新日関係者)

 では、なぜこのカードは実現しなかったのか。
 「というか、あの時点で実現したとして、いったいどっちが勝つんですか? かねてから『ワールドプロレスリング』中継を担うテレビ朝日は、あくまでも猪木がトップでなければ、テレビ放送する価値がないとの構え。だからといって、将来のエース候補である前田を簡単に潰すわけにもいかない」(同)

 やる以上は、前田がトップに立つことをファンや関係者に納得させた上で、最低でも猪木と互角以上の闘いを見せなければならないわけである。そうして、そんな要望に応えるかのごとく、前田は着実に実績を重ねていった。
 タッグ戦ながら猪木にリングアウト勝ちを収めると、ドン・中矢・ニールセンとの異種格闘技戦でも激勝を果たす。これにより、いよいよ世代交代が現実味を帯びてきたかに見えたのだが、そこで思わぬ横やりが入る。

 新日vsUWFの対抗戦は、ライトなファン層からすると関節技主体の攻防が地味に映ったのか、コアなファンの熱狂とは裏腹に、テレビ中継の視聴率はむしろ対抗戦以前よりも低くなってしまったのだ。
 そのためテレビ朝日の要望で、『全日本プロレス中継』(日本テレビ系)を活性化させた立役者である、長州力の新日復帰工作が始まった。
 長州路線で行くとなれば、もはや猪木と前田が闘う必然性はない。前田を新エースの座に就かせる“大河ドラマ”は、シナリオ変更を余儀なくされてしまったのだった。

スポーツ→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

スポーツ→

もっと見る→

注目タグ