「小笠原諸島の東方沖には伊豆・小笠原海溝が南北に延びており、ここから小笠原諸島の下にプレートが沈み込んでいるわけです。今回の地震は、その太平洋プレートの先端部が崩壊して起きたものです」
とはサイエンスライター。ただし、「この地震により今後何らかの影響が出てくる」と言うのは、東日本大震災の発生を的中させた琉球大理学部名誉教授の木村政昭氏だ。
「伊豆・小笠原海溝には、深さ400キロぐらいのところに硬い岩盤があるのです。おそらく、太平洋プレートが沈み込む際、そこに突き当たって崩れた可能性があります。今回の地震によって、西ノ島の溶岩流出は止まると思います。深発地震は、噴火や地震の発生に影響を与えるのです」
巨大地震のほとんどは、陸域に近いエリアで起こっている。南海トラフの巨大地震もしかり、関東地震も相模トラフで発生し、東日本大震災も三陸沖から茨城県沖にかけて起こった。
「しかし、実は和歌山沖から九州にかけても、深さ400キロを超える深発地震が陸域とは比較にならないほど起こっているのです」(同)
たとえば、伊豆諸島鳥島近辺を見てみると−−。
●1974年11月30日、鳥島近海で発生=M7.3、最大震度4、深さ454キロ。
●'78年3月7日、東海道南方沖で発生=M7.2、最大震度4、深さ440キロ。
●'84年3月6日、鳥島近海で発生=M7.6、最大震度4、深さ452キロ。
●2012年1月1日、鳥島近海で発生=M7.0、最大震度4、深さ約397キロ。
'12年に発生した深発地震は、東北地方や関東地方の広い範囲で揺れが観測されたが、その他は本州への影響があまりなかったため、我々の印象に残っていないだけなのだ。
しかし、木村氏が指摘するように、深発地震は発生後、地殻や活火山に影響が出る可能性を孕んでいる。事実、関東大震災(1923年・M7.9)の前にも深発地震が発生していたとされ、さらに伊豆大島の三原山が噴火している。今回の地震で不気味なのは、震源となった小笠原諸島の北、木村氏が予測する伊豆・小笠原諸島で発生するというM8.5の巨大地震だ。
その発生時期は、2015年±5年だという。
「今回の地震が発生した場所は、西ノ島の南側に当たります。つまり、私が予測した伊豆・小笠原諸島近海とは震域が異なるので、別の地震と考えた方がいい。しかも、南側でストレスが取れたぶん、太平洋プレートのプレッシャーが強くなるため緊迫度が高まっている。もう、いつ起こっても不思議はないということです」(木村氏)
国の地震調査研究推進本部では、伊豆・小笠原諸島を震源とする巨大地震についてこう説明している。
「関東大震災などのように、相模湾から房総半島南東沖にかけてのプレート境界付近で発生する地震によって、伊豆諸島の北部を中心に強い揺れや津波による被害を受けたことがあります。また、房総半島東方沖で発生したと考えられている1677年の地震(M8.0)や、1972年2月の八丈島近海の地震(M7.0)、同年12月の八丈島東方沖地震(M7.2)などの関東地方東方沖合から伊豆・小笠原海溝沿いのプレート境界付近で発生する地震によっても、津波や強い揺れによって被害を受けたことはあります。しかし、この伊豆・小笠原海溝付近では、M8クラスの巨大地震の発生は知られていません」
しかし、木村氏によれば「歴史を紐解くと、1605年に発生した慶長地震(M7.9)は震源が伊豆・小笠原ではないかと考える地震学者がいる」という。
「地震学の世界では、慶長地震は房総沖と徳島沖の二つが震源とされている。ただし、公的な記録は残っていませんが、専門家の間では、これとは別に伊豆・小笠原が震源域ではないかと囁かれだしているのです。このとき、八丈島や和歌山では津波による被害を受けた。発生した場合、地震動そのものはフィリピン海プレートで吸収されてしまうため、本州では揺れはさほどでもないでしょう。問題は津波で、フィリピン海プレートは薄くて跳ね返りやすいために、東京から西日本にかけて甚大な被害が出ると思われます」(木村氏)
伊豆・小笠原諸島は東京の南に位置する。そこで発生した津波が、東京湾を直撃するのである。
「東京湾の入口は狭いのでそこでエネルギーが減衰するでしょうが、これまでにない津波になるはずです。相模湾などはまともに津波を受けます」(同)