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【これじゃ売れない!】 椎名林檎のCDは何故売れなくなったのか?

 グリコ「ウォーターリング キスミントガム」のCMで華麗なムーンウォークを披露している椎名林檎。音楽とは関係ない商品のCMにアーティストが出演する理由に、「CDの売り上げ不振」というのがあり、今回の彼女のお菓子のCM出演もそのひとつと言われている。しかし、もともと音楽と同時にダンスやビジュアルにこだわりを持つ椎名林檎。CM露出は驚く事では無い。かつての矢沢永吉のドラマ出演の方がよっぽど衝撃的だった。それよりも心配なのが、椎名林檎の「CDの売り上げ不振」の方。いくらダウンロード時代だからといって、彼女のCDが売れないんじゃ音楽業界も終わり? いやいや、売れない理由はやっぱりCDの内容にある。曲が良ければもっと売れるはずだ。椎名林檎のCDは何故売れなくなったのか?

 レベルの高い歌唱力で歌い上げられた林檎の曲は、叙情的な音楽に「夜の女」、「薬物」、「自殺」など社会の“負”の部分を彷彿させるワードが飛び交う。決して前向きで無く暗いのだが、ドラマティックで強烈な魅力を放っていた。映画ばりに時代ロマンを散りばめた林檎の世界は、まるで寺山修司の活躍した70年代にタイムスリップしたかのような独特のアングラ感があり、それも約10年前のポスト・バブル期の喪失感にピッタリとマッチ。出すアルバムは当時の世相を反映するかのようにヒットし、半ば中毒症状の様に、引きこもり・ニートを筆頭とする、ネット中毒者、リストカッターなど「心に闇を抱えた若者」、また潜在的に「闇」を意識していた人たちを夢中にさせた。
 やりきれない悶々とした毎日のうさを椎名林檎の曲をカラオケで歌う事によってはらしていた人も多いのではないか。(記者もその一人。)椎名林檎の曲は、男女の恋愛感情のみを歌う他の女性アーティストに比べて群を抜いて分かりやすかった。

 それから数年たち、売れて大金を手にした椎名林檎は、九州出身の「新宿系」というブランドイメージを覆すような私生活を送り始める。未婚で出産まではいいが、高級住宅街に居を構え、冴えない男を数人ひきつれて「東京事変」というバンドを結成し、全く毒気の抜けた駄作ばかりを発表するようになった。これがファンをがっかりさせる。
 籍を入れず、煩わしい夫の世話を最初からしないと決める潔さ、子供との時間をたっぷり取るため、信頼できる仲間に仕事を分担できるバンド活動にシフトする要領の良さ。どれをとっても「母アーティスト」としての椎名林檎はまったく賢い女性である。しかし、一足先に子供を産んで、お金を手にし、幸せになった椎名林檎から、いまだ不幸のトンネルから抜け出せないファンたちはどんどん離れていく。曲が売れなくなって当然、椎名林檎の曲はファンの心に届かなくなった。

 かつてソロの彼女を支持していたのは、モヤモヤした不満をかかえる思春期の少年少女、水商売の女性、毎日が退屈な主婦やOL、仕事漬けのマスコミ関係者など、いずれもあんまりハッピーでない人達。椎名林檎は母として落ち着いたが、抜け道の無い不景気の中にあるファンたちはそういう訳にいかず、10年経っても相変わらずハッピーじゃないのである。でも毎日を生きねばならない。そういう時に聴きたい曲を今の椎名林檎が投げてくれない。毒が薄められた曲では物足りないのだ。

 「東京事変」はそのタイトルこそ衝撃的に見えるが、彼らが生み出す曲のひとひとつは、専門性が高く単調で凡庸。美しいが分かりにくく、林檎の最大の魅力であった悲哀と下品さに欠ける。椎名林檎から下品を取ると意外に何も残らない。かつて急激にファンキーになり人気が落ちた安室奈美恵、クリエーターの元夫に影響され過ぎた宇多田ヒカルと同じように英語を多用し、妙に専門性が上がるとかつてのファンは一斉のそっぽを向き始める。椎名林檎とてやはりファンに媚を売るのは大切。今林檎に求められているのはムーンウォークやCDジャケットのヌードなどの見た目のサービスでは無く、「心に届く曲」。それに尽きる。

 聴き古されたアーティストや、テレビで露出の多いタレントのCDばかりが売れる最近の現象を見ても分かるように、結局日本人は分かりやすい歌謡曲が好きで、それ以外はあまり聴きたがらない。音楽業界にとってそれもそれで問題なのだが。(コアラみどり)

写真 (6月発売のアルバム『三文ゴシップ』。回転率が悪いらしく既にレンタルでは“一般作”。)

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