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歌舞伎界は市川海老蔵を批判できるのか

 歌舞伎俳優の市川海老蔵が暴行を受けた事件の話題の勢いが、衰えを知らない。全治2か月の重傷を負った海老蔵への同情は驚くほど乏しい。海老蔵だけでなく、妻の小林麻央までも梨園の妻として無自覚などとバッシングされている。海老蔵が麻央に贈ったダイヤモンドの婚約指輪の輸入消費税の未納疑惑まで登場し、泣き面に蜂である。
 海老蔵が同情されない理由は、以前から酒乱癖や私生活の乱れが悪名高かったためである。そこには幼少時からの厳しい稽古や伝統の重圧への反発があったとされる。しかし、歌舞伎界自身に伝統を破壊する矛盾がある。

 日本の中心的な歌舞伎劇場と言えば、東京都中央区の歌舞伎座であった。伝統を感じさせる破風屋根の桃山様式風の建物は歌舞伎のシンボルであった。国の登録有形文化財に指定され、東京の観光名所にもなっていた。
 歌舞伎座は海老蔵にとっても思い出深い劇場である。1983年に『源氏物語』の春宮役で初お目見得し、1985年には『外郎売』の貴甘坊役で七代目市川新之助を襲名した。2004年には『助六由縁江戸桜』の助六役などで十一代目市川海老蔵を襲名した。
 その歌舞伎座は4月30日で閉館し、現在は既存建物が完全に解体され、建て替え工事中である。建て替え後の歌舞伎座の建物は地上29階地下4階、高さ150メートルの超高層ビルになる。劇場の入る低層階は唐破風など現在の建物のイメージを継承するものの、墓石のような高層ビルが張り付くならば風情が台無しである。劇場部分についても、ガラスを多用し、細部の装飾を省略するなど、元の建物とは似て非なる要素が強い。
 高層階がオフィスとなる点も、ハレの場である歌舞伎の非日常性とは相容れない。高層ビルへの建て替えは都市再生特別地区として容積率が緩和されることで可能となっており、建て替えは不動産ビジネスとしての側面が強い。

 伝統的な建築物の維持・保存よりも不動産ビジネスという利権を優先しながら、役者や妻には役者や梨園の妻としての自覚を要求する。これは体質的な腐敗が指摘されながら、朝青龍には品格を要求した相撲協会と重なる。
 以前から海老蔵の言動に問題があったことは確かである。一方で、これまでは大きな問題は起きていなかった。ここからは二通りの見方が成り立つ。第一に今回の事件はいつ起きてもおかしくなかったとする見方である。第二に海老蔵の乱れがエスカレートして今回の事件となったとする見方である。前者の見方が優勢であるが、自らを育てた劇場が不動産ビジネス優先の建物に建て替えられてしまうことの空虚感が海老蔵を暴走させたと見ることもできる。

(写真は建て替え工事中の歌舞伎座)

林田力

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