4コマ漫画原作の映画化は『自虐の詩』『猫ラーメン大将』『おのぼり物語』と実写映画が続いていたが長編アニメ映画は2003年の『ぼのぼの』以来となる。また芳文社の『まんがタイムグループ』では初の映画化作品の誕生となった。
さて、近年は「萌え4コマブーム」とも呼ばれるが、映画化までされた4コマ原作のアニメ映画は『けいおん!』以外には見当たらない(一応『あずまんが大王』の例はあるものの『あずまんが』は6分間のスペシャル短編である)一体何が魅力なのであろうか。
『けいおん!』の魅力については近年の萌え4コマと呼ばれるジャンルについて解説しておきたいと思う。萌え4コマについて、芸能界屈指の4コママニアである天津の向清太朗氏は自身のイベントでおもしろい解釈をしていた。「『あずまんが』の功績は4コマ漫画に間を用いたギャグを持ち込んだ。この方式は後の4コマに大きな影響を与えた」と語っていた。
4コマ漫画の魅力とは、シンプルなキャラクター達が織りなすギャグの応酬である。ストーリー漫画の場合は物語の進行に重点が置かれるが、4コマ漫画は4コマの枠を用いてギャグを構成していき、一本のストーリーを作っていく。これはストーリー4コマと呼ばれる手法で近年の4コマはこの「ストーリータイプ」がメインになりつつある。
起承転結ギャグの繰り返し故に捻った話を作るのは困難であるが、最後にあっと驚く大落ちを仕込む事もできるため、ここが作家力の見せ所である。
大筋はシンプルであるのでストーリーに隙を作る事ができる。これが向氏の言う「間」であると筆者は解釈する。近年の萌え4コマはこの「間」を意図的に織り込み作品世界に入りやすくしたものが多い。あえて「間」を作ることで第3三者である読者がキャラクターに自由に突っ込みを入れる事ができ、自分自身が漫画の世界に溶け込む瞬間を与えているのだ。
「間」の世界に溶け込むにはしっかりしたオチはむしろ邪魔になることもある。オチは読者が介入し、突っ込めるレベルの物が最もふさわしいと言える。
「落ちていないオチ」を自分が突っ込み、可愛い絵柄の作品世界へ自己投影ができる4コマが今の「萌え4コマ」のスタンダートタイプなのではないかと思う。
さて、『けいおん!』はどうか?
『けいおん!』はまず、「間」のギャグよりも起承転結を用いたスタンダートな構成の4コマである。
『けいおん!』は音楽活動よりも女子高生たちの部室での過ごし方に焦点を置いており、高校時代をゆるい部活動で過ごした人間にはある種のノスタルジィを覚える内容に仕上がっている。キャラクターの個性も際立っており、親近感を持てる人物が見つかるよう工夫されている。
「間」ではなく、第3者から見たキャラクターの魅力とそのキャラクターの存在する世界の中でギャグを作っていくのだ。
キャラクターが立っているので、オリジナルのストーリーが作りやすくコミカライズやアニメ化にはうってつけの題材であった。
また、音楽をテーマにしているためアニメとの相性も良く、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの京都アニメーションがアニメを製作したのも勝因のひとつだった。
以上の点があり『けいおん!』のアニメは大ヒット作となった。
しかし『けいおん!』の大ヒットはいいことばかりではなかった。
4コマ漫画『けいおん!』の悲劇はアニメの評判が独り歩きしてしまった点にある。amazonのカスタマーレビューを一見すると、アニメから原作を読んだ人の評価が大きく分かれてしまい、「ガッカリした」「アニメとは別物と思ったほうがいい」との意見が散乱している。
確かに「名作」というわけではないが、筆者は前述の理由でおもしろい4コマ漫画だと感じたし、オチのつけ方も2巻以降はグッとレベルアップしているように思う。
正統派の4コマだから「萌えアニメに抵抗がある」と思っている人にもきっと楽しめるはずである。4コマ漫画『けいおん!』をただのコレクターズアイテムで終わらせるのは惜しいのだ。
※写真 某大型古書店で売られている袋入り600円の『けいおん!』単行本
(昭和ロマン探求家・穂積昭雪(『開運貴婦人マダム・パープル』の終了が悲しい24歳)山口敏太郎事務所)
【参照】山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou