まず事例を見てみよう。東京・世田谷の会計士Aさん(57)は、2年前から300メートルほど歩くと脚が痛くなり立ち止まるようになった。しばらく休むと一時的に血流が良くなるのか歩けるようになるものの、また20分ほど歩くと痛くなって立ち止まる。遠藤さんは、その繰り返しで、外出もついついおっくうになった。
実は半年前、腰痛治療先の整形外科で「脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)」と診断されていた。そのとき脚の異常を話すと「脚の痛みとシビレも、そこからきているようだ」と説明されていた。
ある朝、靴下を履こうとすると、いつもより脚の痛みを強く感じたため、思いきって掛かり付けのクリニックで診て貰ったところ、「下肢の動脈硬化の疑いが強い」と診断され、直ちに設備の整った大学病院を紹介された。診察に当たった昭和大学血液内科・血液疾患担当医の説明によれば、症状は以下のようなものだった。
「間違いなく患者(A)さんは、下肢の動脈硬化(閉塞性動脈硬化症=ASO)と呼ばれる病気でした。一般的に血管の狭窄や閉塞が起こる動脈硬化は、全身のどこにできてもおかしくない。しかし、下肢にできた動脈硬化は重篤なケースになることが多いんです。ASOの30%が5年以内に心筋梗塞などで死亡するという怖いデータもあります。Aさんのように症状が出る方は比較的少なく、自覚症状が出ない人の方が多いのが特徴で要注意です」
この病気の怖いところは血流が著しく悪くなると、足先が壊死に陥り、脚の切断という最悪の事態に至るケースがある。また、靴ずれや水虫などのちょっとしたきっかけからも壊死を起こすことがあり、決して軽く見ることは出来ない。
しかし、こんな性質の病気でありながら知名度が低いのはなぜなのか。別の専門医もその理由は、症状が出にくいからだという。
冒頭のAさんのように、歩いていてふくらはぎ辺りに痛みを感じ歩行を休むと、痛みが治まるというのは「間欠跛行(かんけつはこう)」と呼ばれるもので、この症状を示すのは、患者の中の10〜30%に過ぎず、あとの罹患者は発見が遅れがちになるという。
たとえ脚のシビレや跛行があっても、ほとんどの患者は、自覚を持たず「齢のせいだろう」とか「疲れからきている」程度の認識でやり過ごしてしまう場合が大半といわれる。
「50代を過ぎると脊柱管狭窄症のほか、生活習慣病などを抱えても不思議ではありませんが、厄介なのは脚の動脈硬化症の自覚が鈍いため、それらの病気に間違われ易い。他の病気を併発していたらなおさらです」(前出の血液疾患担当医)