ソニー迷走の元凶に名指しされるのは、不振のどん底に陥ったエレキ事業である。苦肉の策としてパソコン事業の撤退、テレビ事業の分社化などに踏み切ったが、赤字脱出の処方箋は描き切れていない。たとえIR説明会でバラ色の夢を語ったところで、世間の大半は眉にツバするに決まっている。
とはいえ、どん底の業績にあえぐ同社が『ソニーエレクトロニクスIR Day』と銘打ち、1日かけて開催するのである。力の入れようは確かに尋常ではない。大手証券マンは「もしかすると、何か重大発表があるのではないか」と期待を膨らませる。
伏線はある。「物言う株主」として知られ、ソニーに映画や音楽などエンターテインメント事業の分離・上場を求めて揺さぶりをかけてきた米ヘッジファンドのサード・ポイントが、保有するソニー株を全て売却、1年余にわたって続いた攻防戦から撤退した。ダニエル・ローブCEOは出資者に「ソニー株で20%近い利益を得た」旨の書簡を送ったとされるが、市場筋は「一時は7%の株を保有してにらみを利かせたが、この夏には1.64%まで比率を下げていた。それを叩き売ったのは、ソニーの将来に失望したことを意味する」と指摘する。
こわもてファンドに三くだり半を突き付けられた以上、ソニーは売り圧力に押され、市場から淘汰されかねない。不吉なカウントダウンを回避するためにも、11月25日に世間がアッと驚く発表に踏み切るのではないか、と大手証券マンは深読みするのだ。
その中で目が離せないのが平井一夫社長兼CEOの去就である。同社長は音楽・映像畑の出身で2012年4月に就任したが、ソニーOBは「英語が堪能な上、同じ音楽・映像畑出身のハワード・ストリンガー会長(当時)のお眼鏡にかなったのが大抜擢の真相。ソニー伝統のエレキ事業にはズブの素人とあって、就任早々から『あの男で本当に大丈夫か』と前途を危ぶむ向きが少なくなかった」と振り返る。
何せ大赤字にもかかわらず、昨年度の所得はストックオプションを含めると3億5920万円。電機業界のトップでも際立つだけに、社内には高給取り社長への反発が渦巻いている。
果たせるかな、9月17日ソニーが来年3月期の業績見通しを大幅に下方修正し、上場来初となる屈辱の無配転落を発表すると、社内外から平井社長の退任を求める声が噴出した。従来は500億円の最終赤字を予想し、これだけでもいち早く黒字化したパナソニックやシャープと明暗を分け、OBを歯ぎしりさせていたというのに、赤字額は実に5倍近い2300億円に急拡大するのだから無理もない。
「そこで社内ナンバー2の吉田憲一郎CFO(最高財務責任者)を平井社長の後継に推す声が浮上している」とソニーウオッチャーは解説する。
「吉田さんは財務畑出身で財務改革にはうってつけ。ただ、出井伸之社長時代に社長室長を務めたことから“出井側近”と目されている。ソニー迷走のA級戦犯は出井、ストリンガーのご両人で“吉田社長”誕生には異論も大いにくすぶっています」
もう一つ見逃せないのが巨額の赤字を垂れ流すエレキ部門の戦後処理だ。テレビ、カメラ、スマートフォンにしても、今や中途半端な再編では立ち直れない。そこでソニーが黒字事業のエンタメ分野と金融分野に特化し、他の事業から撤退するシナリオが浮上する。
「ソニーは否定しましたが、10月半ばに中国メディアが『ソニーが中国からの撤退を検討している』と報じた。最重要市場に位置付けているとはいえ、中国ではソニーのブランド力が低下しているため『さもありなん』と受け取る向きが少なくなかったようです」(同ウオッチャー)
米国の物言う株主、サード・ポイントのソニー撤退が明らかになったのは、その直後のことだ。
前出のソニーOBが苦笑する。
「戦後処理でも赤字のエレキでは買い叩かれる。エンタメと金融を含む一括身売りならば、中国企業当たりがパクッと飛びつくでしょう」
奇しくもソニーは年度内に、スマホ経由で取り寄せた文字や画像などの情報を視界上に重ねて表示する機能を持つ眼鏡型『スマートアイグラス』の発売を目指している。この“未来を覗く眼鏡”に、同社の明日はどう見えるのだろうか。