東京都は五輪・パラリンピックへ向け、神宮外苑地区の再整備を協議してきた。先ごろその計画がまとまり、都庁で明治神宮など地権者6団体が覚書を交わした。
それによると、2020年東京五輪後に神宮球場の取り壊しに着工し、'22年度末までにラグビー場跡地に新球場を建てる。早ければ'23年から“新”神宮球場がオープンする。
この内容に神経を尖らせていたのがヤクルトファン。当初の計画では、東京五輪に合わせて新国立競技場とともに老朽化が進む神宮球場も建て直す、とされていたからだ。そうなれば、新しい神宮球場が完成するまでの間、本拠地を失うヤクルトはかつてのロッテのようにジプシー球団にならざるを得ない。そこで検討されていたのが、地方への本拠地移転だった。
「建て替えになれば2シーズンは使えない。そこで緊急避難先を協議していたのです。候補地はプロ野球がまだ進出していない、金沢、新潟、長野、静岡、岡山、松山。しかし、どこもまとまらなかった。全面移転ならともかく、新球場ができるまでの“腰掛け”なら結構というわけです。しかし、球場の取り壊しが東京五輪後に決まったことで、事態は大きく動き出しました」(ヤクルトOBの解説者)
この先5年間、スポーツ界は“五輪競技”が花盛りとなり、野球の人気低迷が進む。毎年20億円近い赤字を垂れ流すスワローズの維持には、筆頭株主の仏ダノン社が不快感を示しており、経営陣は球団売却も含めて経営改善を求められている。
そこで、球団に愛着を持つヤクルト首脳は「本拠地を地方に完全に移す」ことで生き残りを模索していた。とても東京五輪の後まで待てないのが現実なのである。
「最終的には新潟と静岡にターゲットが絞られた。しかし、静岡市は市民からサッカーの新スタジアム建設の要望が出され、プロ野球の誘致をほぼ断念。残るは新潟市。こちらは立地的に中国に近く、球団誘致は訪日中国人促進にもつながると歓迎している。日本海を挟んで新潟は極めて近距離にあり、日本との架け橋の拠点にしようとしているのです。これには賛否両論あるが、中国から富裕層のプロ野球観戦者が計算できれば新潟の経済効果は計りしれず、ヤクルトの本拠地移転に期待する動きがあるのは確かです」(地元紙記者)
中国は'10年、新潟市に総領事館を開設。市の中心部にある市立万代小学校跡地や信濃川沿いに広大な土地を手に入れるなどして、経済面から交流を深めている。'05年に北朝鮮の羅津(ラジン)港を租借したことで、中国から新潟までが一直線となり、新潟の土地所有を希望する富裕層が引きも切らないのだという。
実は、ヤクルトの新潟移転を虎視眈眈とうかがっていたのが巨人。東京ドームもまた立て直しの時期に来ており、故障者の続出で足腰に負担がかかる人工芝を見切っている。開放的な空の下、天然芝の上でプレーできる新しい神宮球場は願ったりかなったりなのだ。
チーム名も読売色を薄め『東京ジャイアンツ』にすることで、舛添要一・都知事の支援も取り付けているという。新球場完成に合わせて「松井秀喜監督」の青写真も透けて見える。
グラウンド外の巨人は、一足先に絶好調のようだ。