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【不朽の名作】塚本晋也監督が奇才ぶりを発揮した「鉄男」

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 塚本晋也監督といえば、最近では2015年に公開された『野火』が自主制作でありながら、かなり反響を呼び数多く劇場で公開された。そんな塚本監督の特異な才能がいかんなく発揮され、世間的に知られるようになったのが、1989年公開の『鉄男』だ。

 この作品、とにかく得体が知れない。作品的には男(田口トモロヲ)の肉体がどんどん鉄に侵食されていくという作品だ。車で轢いてしまった“やつ”(塚本)も、自ら金属を体に埋め込んだ人間で、轢いた時の恨みなどで、なにかと男はつけ狙われることになる。という設定なのだが、セリフも最小限で、ひたすらロック調なBGMと金属音が響くというかなり珍妙な作品となっている。

 脈略もなく唐突に男が金属化の因子を、剃り損じて頬を傷つけた剃刀の刃から得て、これまた唐突に、金属化された眼鏡の女(叶岡伸)に襲われるという冒頭となっている。もう「なんじゃこりゃ!」としか思えない展開だ。しかもこれといった説明も挟まれず、その後男の体がどんどんと金属化していくという状況になる。おそらく説明なしで、意味不明に展開する作品が苦手な人ならば、このあたりで、観るのをやめるレベルだ。医者(六平直政)、謎の浮浪者(石橋蓮司)の存在も、時系列が若干ずれている影響もあるのか、イマイチ存在意味がわからない。それでもカット割りなど、全体的なテンポとして決して悪くないので、作品そのものに抵抗感を感じなければ、なんとなくどんどんと観続けてしまう。

 とにかく意味不明な部分が多すぎるが、映像的な意味では、嗜好に合えばかなりハマれる作品となっている。まずモノクロの映像が目をひく。そして人間が金属化していく過程の姿が、程よいグロさと、小気味良いスピード感で描かれる。画面の点滅、いきなり体から出る蒸気、水しぶき(汗?)などの、どうかしてるんじゃないかと思ってしまう演出もかなり印象的だ。また、人の肉が切れているときの、質感や音もかなりエグい。塚本作品の『野火』や『ヴィタール』を観たことがあればわかるかもしれないが、かなり見せ方がねっとりしている。慣れないと気持ち悪くなるほどに。

 予算的にはおそらく、巷にあふれるB級映画やVシネマより低予算なはずだ。撮影場所もほぼアパートの一室と廃工場のみという潔さだ。しかし映像をモノクロにしたおかげで、特に男の体を侵食する金属にかなりのメタル感が出ており、低予算から出てしまう粗を徹底的になくしている。また、予算が少ないながらもストップモーションやクレイアニメを多用することで、得体の知れない世界観や、金属と同化した人間の超人めいた能力なども表現しており、安っぽさはあまり感じない。ちなみに、ストップモーションなどは、一瞬の映像を使うだけでも、かなりの枚数を撮影しなければならない。同作はそれがほぼ全編通して重要なシーンで使われているので、手間はかなりかかっている。

 映像的インパクトとして、一番強いのは男の股間がドリルに変質する場面だろうか? 不気味なシーンが多いなかで、この辺りは純粋にコメディ色が強い場面となっている。まさかちゃぶ台をぶち破ってドリルが出てくるとは…。その後、女(不二稿京)が「私たいがいのことなら驚かないから」と何度も繰り返した後に、男の体を見て絶叫するシーンも、結構ギャグノリだ。ちなみにこの後のバトルがかなり気持ち悪い。もちろんいい意味ではあるが。体が金属化しているのに、とりあえず風呂に入るシーンなどもかなりシュールだ。ちなみに男の体はサビにくいが、“やつ”の体は最初に入れたネジがサビていたこともあり、かなりサビ易い体らしく。そのあたりも男が執拗に狙われる理由にもなっているようだ。

 また、前記したが、ストップモーションを使ったかなりスピード感のある“やつ”とのバトルなのかな? そういったシーンもBGMとの音ハメが効果的で、かなり楽しい。とりあえず、かなりの高速で、ホバー移動しながら、カーチェイスをしている感はある。どれだけ需要があるかわからないが、金属化した人間の高速ホバー移動を、低予算で描きたいなら同作はかなり参考になるはず。

 また音楽面でもこの作品はかなり印象に残る。セリフ量も少ないので、情報量的には音楽の方が多いくらいだ。男の絶叫や、“やつ”の高笑いの混じったBGMが劇中を盛り上げる。細かい話の内容はさっぱりなのだが、とにかくBGMのテンポの良さで観れてしまう。多分、67分という尺もこの作品に合っているのだろう。これが90分とか120分の作品だったら、さすがに途中で苦痛になってしまうはず。

 同作は、ホラー的な要素やグロ描写のなかに、若干ブラック気味のコメディが盛り込まれるという形になっており、ジャンル的には『死霊のはらわた』のようなノリで観ればいい作品なのかもしれない。まあ、人を選ぶ作品には間違いないだろう。限りなく満点に近いか、限りなく0点に近いかの二択の感想しかない作品だ。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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