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ワラタ号の笑えない消失(3)

 およそ百年ほど前の1909年、オーストラリアからイギリスへ向かっていた大型商船ワラタ号が、南アフリカの沖合で消息を絶った。残念なことに、当時は船舶無線が商船にも導入され始めた頃で、ワラタ号も無線を装備していなかった。そのため、ワラタ号からは救難信号など全く発せられていないため、消失に至った過程は推測することも困難である。そして、懸命の捜索にもかかわらず、ワラタ号はもちろん漂流物さえ発見できなかった。ところが、ワラタ号が行方不明となった直後から、とある憶測が流布されはじめた。

 それは、ワラタ号は安定性不足という重大な欠陥を抱えており、今回の消失は船体の欠陥がもたらした人災との憶測であった。

 そもそも、ワラタ号は処女航海の直後から安定性不足が指摘されており、いったん就航した後にもドック入りして船体などを厳しく検査しているが、欠陥を示す証拠は発見されなかったことから、事実無根の単なる噂として決着がついていた。しかし、南アフリカ沖で消息を絶った後は残骸すら発見されなかったばかりか、消失直前に寄港地で下船した乗客が「不安定に感じた」との電報を家族へ送っていたことも明るみに出て、再び欠陥船の噂が蒸し返されたのである。

 そして、新聞が噂に基づいた記事を掲載するようになると、国会議員も含めた政財界の有力者まで欠陥先疑惑に関心を持ち、声高に再調査を求めはじめた。とはいえ、既に船体の調査で問題なしとの結論が出ており、強い社会的発言力を持つ人々とは言っても、船舶構造や海事技術に関する経験や知識をほとんどもたない、いわば素人が騒いでいたのである。これは、現代の事故や災害においてもしばしば発生する現象だが、社会的な発言力の強弱と専門知識の有無や内容の正当性は無関係であり、非専門家が世論にあおられても、反対にあおっても、たいていは良い結果をもたらさない。

 無論、ワラタ号の消失についても、やはり同様であった。

 結局、再調査を求める声に屈した形で、ついには英国商務省が再調査に乗り出すこととなった。だが、船体や生存者はもちろん、漂流物すら発見されていなかったため、再調査は困難を極めた。それでも商務省の調査委員会は建造時にさかのぼってあらゆる資料を取り寄せ、乗船経験を持つ乗組員や旅行者への聞き取りなど、精力的な調査を重ねた。しかし、それだけの調査によっても大きな欠陥は見つからず、ワラタ号には構造的な欠陥が存在せず、消失原因は天候などの不可抗力によるとの結論に至ったのである。

 では、なぜ、どのようにしてワラタ号は消失したのだろうか?

(続く)

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