「絶体絶命の場面での攻撃的な守備だった。勉強になった」
試合後、敵陣の原辰徳監督はそう称賛した。
「原監督は正直な人です。『勉強になった』の言葉は本当でしょう。もし批判的に捉えたのなら、表情に出たはずです」(関係者)
ブラウン監督を知る者たちは、必ずしもそうは思っていないようだ。
広島の指揮官時代のことである。
昨年6月14日(対西武戦)、同点で迎えた延長12回裏、無死満塁という窮地で、ブラウン監督は左翼手と交代させた小窪哲也をセカンドとショートの中間に置く『5人シフト』を指示した。打球はその小窪の正面に飛び、「7-2-3の変則併殺プレー」が成立。このとき、マウンドにいた青木高広投手は「5人でなければ(外野に)抜けていましたね」とブラウン采配に“賛同”したものの、守っていた野手陣からは「これから先、どんどんいろんなサインが出そうですね」と、複雑な表情を浮かべていた。
楽天が同監督を招聘にするに当たり、実は広島時代の評判もネックになっていた。
「ブラウン監督の采配は難しいんですよ」
チーム関係者の1人がそう言う。その難しさは前任者・野村克也名誉監督(74)の比ではないそうだ。
「サインが出そうな場面でフリーだったり、何でもない場面で奇襲サインが出たり…。なぜ、そういう奇襲が必要なのかよく分からないんです」
この意味不明な奇襲作戦は『5人シフト』だけではない。今季、楽天打線は『フェイクバント・スチール』を用いるときがある。打者がバントの構えからバットを引く。その間に走者が盗塁をするというものだが、バントの構えを引くだけでは、相手捕手の送球を遅らせることはできない。「それだったら、空振りでもした方が送球を遅らすことになるのではないか?」なる疑問も、楽天ナインから出ているのだ。セ・リーグ球団のスコアラーがこう続ける。
「ブラウン監督の『フェイクバント・スチール』? 広島時代も何回か見られましたよ。広島ナインは否定的でした。私の記憶では成功した場面はなかったはず。ブラウン監督は『奇襲作戦』が好きなんでしょうね。これは性格だから…」
しかし、こうした同監督の奇襲好きな采配に否定的な楽天ナインも必ず言う最後のセリフが「でもね…」である。
「あの人はオレたちが失敗した場面でも、絶対に庇ってくれるんです。監督のためにも今年は勝ちたいと思う」(同)
人望が厚いのは間違いないようだ。
ブラウン監督の契約任期は「2年」と伝えられたが、1年目の成績次第では途中解雇できる内容になっているという。チームの雰囲気が良いのは三木谷浩史・球団会長にも報告されているはずだが、任期全うのためのノルマが「前年の2位以上」となれば、『優勝』しかない。クライマックスシリーズ進出で“合格点ギリギリ”だとすれば、『内野5人シフト』でサヨナラ負けした黒星は痛い。この一敗で、楽天は交流戦首位から転落した。ブラウン監督は奇襲戦法の狙いをナインに説明する必要もありそうだ。