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男装ドラマ対決の意外な伏兵、仲間由紀恵のNHK『テンペスト』

 夏クールのドラマの話題は男装対決である。夏クールは奇しくも主演女優が男性に扮する設定の作品が重なった。前田敦子主演の『花ざかりの君たちへ〜イケメン☆パラダイス〜2011』(フジテレビ系)と瀧本美織主演の『美男ですね』(TBS系)が注目されるが、仲間由紀恵主演の『テンペスト』(NHK BS)が意外な伏兵である。

 男装ドラマの見どころは、何と言っても女性の男装姿である。男装という通常では見られない格好をすることで、女優の新たな魅力を引き出すことができる。古くは歌舞伎の創始者の出雲の阿国が男装によって人気を博した。一方で現実の男性になりきり過ぎると逆に女優のイメージを落としてしまう危険がある。
 この点で『花ざかりの君たちへ』の前田敦子は男子高校生に溶け込んでいるものの、ダウンタウンの浜田雅功に似ているとも指摘され、アイドルとしては微妙なところである。話が進むにつれて主人公は恋愛対象になるため、ボーイッシュな女性的魅力のアピールを期待する。
 『美男ですね』の瀧本美織は、外見はイケメン姿が決まっている。しかし、男性のふりは外見だけで、中身は女性である。もともとイケメンに囲まれるドジっ娘の胸キュン・ラブストーリーというスタンスであり、男っぽさや男らしさは期待しにくそうである。

 『テンペスト』は池上永一の同名小説が原作で、19世紀後半の琉球王国を舞台とした時代劇である。性を偽って王府の役人になる女性・真鶴(仲間由紀恵)が主人公である。当時は現代以上にジェンダーが厳然と存在する社会で、女性が男性になりすますことの緊張感は現代以上である。女性が男性に扮するということは、自らの内にある女性性を抑圧することになる。
 これは『花ざかりの君たちへ』や『美男ですね』には弱い。『花ざかりの君たちへ』の主人公は性格的には男子高校生そのものである。女性であることが露見しないかのドキドキ感はあるものの、無理して男性を演じる悲壮感はない。『美男ですね』の主人公は双子の兄の一時的な代役と割り切れる立場であり、内面的には女性的な思考を維持している。これに対して『テンペスト』の仲間は家や国のために男性に扮するという重たい覚悟を背負い、朝倉雅博(谷原章介)への恋心など内なる女性性との葛藤を抱える。

 『花ざかりの君たちへ』や『美男ですね』では主演女優の男装以外にも、イケメンに囲まれる女性主人公という共通設定がある。この点で『テンペスト』は外れるが、清国の宦官・徐丁垓役でGACKTが登場する。この徐丁垓は琉球乗っ取りを企む悪役で、原作では性格異常者に描かれている。妖艶なGACKTが演じるヒールと自分を押し殺した優等生的な仲間の絡みにも注目である。

(林田力)

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