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ダウンタウンが生み落とした多すぎる新語

 ダウンタウンといえば、泣く子も黙るお笑いキング。デビューから35年も経った今なお、若手芸人にとってあこがれの存在だ。50歳を過ぎてもなおエネルギッシュな姿勢は、芸人の指標になっている。

 松本人志は、手垢が付いた笑いを極力避ける。どんどんリスクは増えるが、だからこそ、言葉のセンスが物をいう。現存している言葉をアレンジして、新語として再生させるのだ。

 たとえば、KYと略されるまでになった「空気を読む」。これは、松本発だ。バラエティ番組では、すべったことを逆手にとって、爆笑につながるパターンがあるが、KYはその逆。情報能力が欠損しているタレントが放った言動で、その場の空気がフリーズしたときに使われる。厳密にいうと、空気は読むものではない。しかし、収録現場で流れた空気を松本は「読む」と解釈し、嫌味を込めて口にした。

 同じく、すべった状況や人を「さぶい」と表現したのも、松本。関西弁で言うこれは、標準語の「寒い」。素っ頓狂な発言や行動で、その場の雰囲気が凍結、「寒い」と感じたことがルーツだと思われる。

 似たような意味で、「イタイ」というのもある。本来は「痛い」が正しい表記で、メンタルやフィジカルが追い詰められ、痛みを感じたときに使われる。しかし、松本の手にかかれば、対象は自分ではなく相手になる。先述と同様、対応に困る言動を無神経にしてしまう相手に向ける。これらはおそらく、司会業でキャラクターが定まる前のタレントと多く接している実体験から生まれたものであろう。

 ほかにも、意気地なしで小心者に対して、「ヘタレ」と名づけた。落ちこんでいる精神状態のことを、「ブルー」と呼んだ。

 先の「さぶい」と同じく、関西弁をさらにアレンジした超変化球としては、「タレ」なる謎の言葉もある。これは、ダウンタウンがまだ関西ローカルのアイドル芸人だった80年代に誕生。意味は、女性だ。それも、本命彼女ではなく、夜のお供をする遊び相手をさした。最大活用は、「タレをかく」。女性を食うという意味だ。かなり下世話なため、関西でも浸透することはなく、古いタイプの芸人が隠語のように使うにとどまった。

 笑いと流行を発信し、いつしか、当たり前のように使うレベルにまで引き上げてしまう松本の世界。流行語大賞云々という域を脱しているのは、さすが笑いの皇帝だ。

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