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尼僧に恋した人魚(♂)の末路

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画像はイメージです。

 滋賀県東近江市川合町にある願成寺は聖徳太子によって開かれたという曹洞宗の寺院である。本尊の聖観世音菩薩立像は、聖徳太子の母の姿を映したものと伝えられており、33年に1度開扉される。また、観音堂には、人魚のミイラ(非公開)が現在でも保存されている。

 昔、願成寺の末庵に目を見はる程の美しい尼僧が住んでいた。いつの頃からか、可愛らしい小姓が、尼僧に身の回りの世話をするために寺へ毎日通うようになった。小姓は、寺にいる時も、外へ出掛ける時も、片時も尼僧の側を離れず、寄り添っていた。だが、この小姓は、どのような素性の者で、何処から来ているのか、村人は誰も知らなかった。また、不思議なことに夕暮れになると、小姓は寺からいつの間にか姿が見えなくなるのであった。初めのうちは、村人達も尼僧と小姓の姿を微笑ましく見守っていたが、次第に羨ましく思うようになってきた。

 ある日のこと、村人が数人集まって本堂の影で、小姓のことを噂していると、庫裏から、小姓が出てきたのが見えた。何処へ帰るのか、確かめてみようと、村人達はこっそりと後をつけてみた。佐久良川の堤まで来た時には、すっかり日も暮れて、辺りは薄暗くなってきた。葦が欝蒼と茂った河原には行きかう人の姿は無く、このまま進むと、淵があるだけだった。その時、前方を進む小姓は佐久良川の淵で、すっと消えてしまった。怖くなった村人は逃げ出した。

 小姓の噂で村中持ちきりになると、あれほど律儀に寺に通っていた小姓は姿を見せなくなり、尼層は寺に篭りきりになった。

 暫くすると、村は日照りになり、川遊びをしていた子どもが神隠しにあったり、火災が増えたり、災厄が続いた。「これは佐久良川に棲む魔物の仕業に違いない」と、皆が言い出すので、修験者に占ってもらうことにした。「佐久良川に棲む人魚の仕業である。直ぐに退治しなさい」と、占いに出た。

 村人は佐久良川を取り囲み、人魚が逃げないように、上流と下流に投網を仕掛け、追い詰めて捕獲した。何と、捕まえた人魚の正体はあの小姓だったのだ。「動物の身でありながら尼僧に近づいたとは、けしからん」と、村人は怒り、人魚はミイラにして、見せ物にした。その後、気の毒に思った人達の手によって、今は亡き尼僧の眠る願成寺の観音堂に安置された。

(写真:「願成寺」願成寺(東近江市川合町)、人魚のミイラ(こちらは主に中部、関西地方で見られるもの)
(皆月 斜 山口敏太郎事務所)

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