“デフレの申し子”ともてはやされた牛丼各社が、今や戦々恐々としている。
数字は正直だ。牛丼チェーン『すき家』を傘下に持つゼンショーホールディングスは、今年3月期の経常利益が前期比28%減の138億円だった。2月決算の吉野家ホールディングスは54%減の24億円、業界3位で3月決算の松屋フーズも60%減の19億円と、牛丼大手3社が揃いも揃って厳しい決算を強いられている。コンビニや惣菜店との競争が激しさを増す中、既存店売上高も『すき家』が前年比8%減、『吉野家』2%減、『松屋』7%減と、これまた大苦戦のオンパレードだ。
3社とも今期は増収増益を掲げるが、どこまで自信があるかとなると怪しい限り。松屋フーズの緑川源治社長は決算会見で「価格競争はもう限界に来ている」と漏らし、アベノミクスで景気が好転すれば牛丼離れが加速しかねないとばかり「牛丼はごちそうではないから」との弱音を吐いた。担当記者は辛らつだ。
「それにもかかわらず各社が強気の業績見通しを掲げるのは、新規出店での集客効果に期待しているためです。弱気を見せれば株主から『経営者失格』の烙印を押され、総会でつるし上げを食うのは確実。しかし、アベノミクスの影響で賃料に加えて材料価格の高騰は避けられない。そう簡単に景気回復の恩恵に浴せない以上、今後の生存競争が一段と厳しくなりそうです」
皮肉な現実がある。吉野家は4月18日に牛丼並盛り価格を380円から280円に値下げした。その効果はテキ面で、4月の既存店売上高は前年同月比11.1%増加し、客数も13.6%増と16カ月ぶりでプラスに転じた。
ところが280円から250円に対抗値下げしたすき家、松屋は効果が限定的で、既存店売上高は20カ月連続減(すき家)、13カ月連続減(松屋)と前年割れした。かねて両社は吉野家よりも値下げによる集客作戦に積極的だったことから「少々のことでは客が飛びつかなくなった」(関係者)という事情はある。しかし、仁義なき価格競争という名の麻薬にドップリ漬かってきた牛丼業界が、ここへ来て大きな転換期を迎えたのは間違いない。
「それを強力に後押ししたのが、アベノミクスによる円安効果なのだから二重に皮肉です」と、前出の関係者が打ち明ける。
「2月に米国産牛肉の輸入規制が緩和されたことから、各社は『価格が大幅に安くなる』とソロバンをはじき、4月の新年度を待ってまたゾロ価格競争に打って出たのです。ところが想定外のスピードで円安が加速しているため、輸入価格下落への期待は呆気なく吹っ飛んでいるのが実情。3社の首脳陣はアベノミクスに対し、内心『余計なことをしてくれた』と苦々しく思っているに違いありません」