この『銀杏観音』があるのは、福井県は若狭町安賀里の『諦応寺(たいおうじ)』。室町時代末期に創建された曹洞宗の名刹で、件の『銀杏観音』は江戸末期に当時の和尚の手によって彫り込まれたものだという。当時、諦応寺のある集落一帯はききん等の良くないことが続いていた。折しも時は幕末、時代や政局が変わろうとしている時だった。そこで、和尚は人々の救済を願って、既に樹齢300年はあった大銀杏の幹に観音像を彫り込んだという。山門の側に立つこの銀杏ならば集落からも見てとれるし、古木には仏が宿るーーー昔からある、大木を『ご神木』として崇める信仰と重ねて仏の教えを伝えようとしたのだと伝わる。
当時は幹半分に彫り込まれていたこの観音像も、月日を重ねて成長することで樹が成長し、幹が観音像の周りをとりまいた。こうして、この『銀杏観音』は現代の姿になったのである。ちなみに、この幹の生長の仕方は自然のもので、何も手を加えていないのに光背のような形になったのだという。また、観音像の胸には一箇所、大きくくりぬいたような箇所がある。ここは初めはふたのように取り外しが出来るようになっていて、観音像の中にお経を入れていたのだという。しかし、現在では樹が痛んでしまうと言うことで、中には何も入れておらずフタの痕跡が残るのみとなっている。
境内には、樹齢400年のギンモクセイの木が植わっている。枝を広げて大きく育ったこの樹は若狭町の指定文化財とされている。どちらの樹もよく育っているので、この諦応寺の境内をパワースポットとして見る人もいるそうだ。
この十一面観音には人々を様々な苦しみから救う力があるといわれ、ささやかな願いであれば叶えてくれるといわれている。また、この観音像の銀杏の入ったお守りも売られている。
境内は夏でも涼しいく、また秋になると銀杏もギンモクセイも紅葉と花の盛りを迎えるという。この夏は避暑に、秋は紅葉を見に、隠れたパワースポットへ訪れてみては如何だろうか。
(黒松三太夫/山口敏太郎事務所)