世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第46回 本当に怖いユーロの話

社会 週刊実話 2013年10月06日 16時01分

 ユーロ加盟国であるギリシャの失業率悪化はとどまるところを知らず、ついに27.9%と、28%目前に達した('13年6月)。特に、若い世代の雇用環境が深刻で、若年層失業率は58.8%である。
 ギリシャが雇用問題を解決するためには、アベノミクスばりに「金融政策」と「財政政策」のパッケージで、失業対策を実施するしかない。

 金融政策と財政政策を同時に実施すると、インフレ率は上昇するが、現在のギリシャは日本以上に物価上昇率が低迷している状況にある。日本がアベノミクス効果により、物価上昇率が何とか「ゼロから上」に顔を出そうとしているのに対し、ギリシャは8月時点でもマイナス幅を拡大している。現在のギリシャは、日本以上に深刻なデフレーションに苦しめられているのだ。
 元々、国内のモノやサービスを生産する能力、つまりは供給能力が不足気味で、国民の需要を満たすことができず、高インフレや貿易赤字が常態化していたギリシャが「デフレ」なのである。バブル崩壊後のギリシャ国内の需要の縮小たるや、恐るべきペースとしか言いようがない。

 現在のギリシャが失業率を押し下げ、経済を成長路線に戻すためには、前述のように金融政策と財政政策のパッケージ以外にありえない。すなわち、普通のデフレ対策をすればいいのだ。
 ところが、ギリシャは「構造的」に正しいデフレ対策を実施することが不可能になっている。
 何しろ、ギリシャ政府は独自の金融政策を採ることができない。全てのユーロ加盟国は、金融政策の権限をECB(欧州中央銀行)に委譲している。さらに、ギリシャ政府は財政的な主権も奪われつつある。EUやIMFから緊急融資を受けた代償として、公務員削減などの緊縮財政を強要されているのだ。ゆえに、現在のギリシャには金融政策、財政政策の主権はない。
 金融、財政という二大主権を喪失している以上、ギリシャ政府の雇用対策は限定されざるを得ない。
結果的に、国民は貧しくなり、政府の目的である「経世済民」が全く達成できていない。

 なぜ、このような事態になったのか。というよりも、ユーロを「設計」した人たちは、現在のギリシャのように出口のない状況に追い込まれる国が出現することを、事前に予見しなかったのか。
 実は、予見していた、というのが正解のようなのである。2012年6月26日、イギリスの大手紙ザ・ガーディアンズのグレッグ・パラスト記者が「Robert Mundell, evil genius of the euro(ロバート・マンデル、ユーロの邪悪なる天才)」というタイトルで、共通通貨ユーロの「設計者」であるマンデル教授(元シカゴ大学、現コロンビア大学)の「構想」をすっぱ抜いた。ロバート・マンデル教授とは、新古典派経済学の権威で、金融緩和論者が好む「マンデル・フレミング・モデル」の産みの親でもある。

 パラスト記者が直接マンデル教授から聞いた話として、ユーロとはそもそも「危機の時に真価を発揮する」システムとして設計したとのことである。
 何の話かといえば、為替レートに対する政府の干渉を排除することで、不況期に「ケインズ的な金融、財政政策」を採りたがる厄介な政治家を「妨害」することができる、という話なのだ。
 「政治家の手が届かないところに、金融政策を置く。金融政策と財政政策が使えないとなると、雇用を維持する唯一の解は、競争力を高めるために規制を緩和することのみである」
 と、マンデル教授は語った。

 経済危機に陥ったにもかかわらず、民主主義により選ばれた政治家がケインズ的(あるいはアベノミクス的)な政策を打てないとなると、マンデル教授の発言通り、政府は「規制緩和」を推進するしかない。
 規制緩和や公共サービスの民営化が断行されれば、元々は無関係だったグローバル資本の「ビジネス」が生まれる。ユーロの加盟国が危機に陥り、手足を縛られた政府が規制緩和、民営化をすることで、「所得上位層1%」のグローバル投資家の所得が拡大するわけだ。「お見事!」としか言いようがないシステムである。

 マンデル教授はパラスト記者に対し、ユーロというシステムを構築することで「民主主義が市場価格に干渉することは、許されなくなる」とも語っている。
 当たり前だが、金融政策にしても財政政策にしても、国家の主権の一部である。現在のユーロ加盟国は、民主主義により選出された政治家ですら、自国の主権を行使できなくなっているのだ。
 現在のギリシャ政府は、ユーロに加盟した結果、危機に直面してすら、金融政策も財政政策も打てない。結果的に、実際にギリシャ政府は公共サービスの民営化や、国有財産の売却を進めている。
 通常では「あり得ない破格な価格」で公共サービスや国有財産を購入できるわけで、今のギリシャはユーロ圏のグローバル資本にとっては、実に美味しい市場となっているのだ。

 元来、新古典派経済学やグローバリズムは、「民主主義」を嫌悪していた。民主主義は彼らが愛する「市場」を歪めてしまうためである。
 結果的に、マンデル教授を代表とする経済学者たちが「机上」で考案し、「政治」を排除する形で設計した共通通貨のシステムこそが「ユーロ」なのである。ユーロ圏3億2600万人の人達は、経済学、経済学者らによる「社会実験」に放り込まれた、という話だ。
 信じがたいかも知れないが、これがユーロの現実である。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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