安倍総理の念頭にあるのは、所得税の配偶者控除の廃止と厚生年金の第3号被保険者制度の廃止だと報じられている。そこでまず、配偶者控除を廃止したら、何が起きるのかを検証しよう。
「103万円の壁」という言葉が、パートタイム労働に関してよく使われる。主婦がパートタイム労働で年間103万円以上の給与を得ると、本人に所得税が課税されるようになるだけでなく、夫にも配偶者控除が適用されなくなってしまう。だから、パートタイム労働者の多くが年収103万円のところで労働を止めている。それならば、配偶者控除を廃止してしまえば、主婦パートがもっと働くはずだというのが配偶者控除廃止論者たちの主張だ。
確かに配偶者控除がなくなれば、主婦パートは、より長い時間働くようになるだろう。しかし、それも「130万円の壁」までだ。実はこちらの方がずっと大きな壁だ。130万円以上の収入を得ると、妻も国民年金保険料と健康保険料を支払わなければならなくなる。年収130万円の場合、国民年金保険料は年間19万3000円、健康保険料は東京都で18万3000円と、合計で37万6000円もの支払い義務が生まれるのだ。だから、130万円を超える給与収入を得る場合は、よほど長い時間働かないと割が合わない。
それでは、配偶者控除を廃止して主婦パートが年収130万円まで働くようになったときに、家計がどのように変化するのか計算してみよう。
主婦の年収は103万円から130万円に増加するから額面で27万円増となる。ところが、主婦には所得税と住民税が課せられる。その額は4万6000円だ。つまり手取り収入は、22万4000円しか増えない。しかも配偶者控除が廃止されるから、夫も増税になる。夫の年収が700万円だったとすると、増税額は所得税と住民税を合わせて10万9000円。家計全体としてみると、15万5000円の増税だ。つまり、主婦が余分に働いて稼いだ27万円のうち57%を政府が持って行くというのが、配偶者控除廃止が意味することなのだ。
そうしたことが起きるから、配偶者控除と同時に専業主婦が厚生年金保険料を免除される「第3号被保険者制度」も廃止すべきだという主張もなされている。ただ、そうなると、主婦パートが年収130万円まで働いたときの国民年金と健康保険の負担増は、先に述べたように37万6000円となる。増税分と合わせて、家計の負担増は53万1000円にも達するのだ。
27万円余分に稼ぐためには、時給800円として338時間も働かなくてはならない。それだけ余分に働いても、手取りが26万1000円も減ってしまうのだ。つまり、「これから大きな増税をするから、その増税分をまかなうために女性はもっと働け」というのが、政府が検討を始める女性の社会進出促進策の本質なのだ。
政府が本当に取り組むべきことは、男女ともに、ほどほどの労働時間で十分生活できる社会の実現ではないのか。