まさに昭和が終えんを迎えようとしていた1988年(昭和63年)12月24日に「釣りバカ日誌1」が公開され、「釣りバカ日誌20ファイナル」(2009年12月公開)まで、21年にわたって22作(スペシャル版2作を含む)が発表された国民的映画だ。
原作は、79年から「ビッグコミックオリジナル」(小学館)で連載されている同名漫画(原作=やまさき十三/画=北見けんいち)で、映画化された後の2002年11月から03年9月まで、アニメ化され、テレビ朝日で放送されたこともある。映画版は、仕事そっちのけで釣りにのめり込む鈴木建設勤務の万年平社員であるハマちゃんこと浜崎伝助(西田)と、ひょんなことから知り合った鈴木建設社長のスーさんこと鈴木一之助(三國連太郎)の名コンビが常に笑いを誘ってくれた。この2人でしか出せない空気感やハーモニーがあり、まさに絶妙のキャスティングだった。
西田はイケメンでもなく、体型も太目で典型的な演技派だったが、同シリーズのヒットで俳優としてのポジションを確固たるものにしたといえるだろう。かたや、日本人離れしたハンサムなルックスの三國は、それまでクールな役が多かったが、同シリーズではコミカルな老紳士を演じており、そのイメージを随分変えた。残念ながら、三國は13年4月14日、90歳で亡くなったが、同シリーズは晩年の三國を語るには外せない作品となった。
意外な気もするが、同シリーズは「男はつらいよ」との同時上演作品としてスタートした。第7作の「釣りバカ日誌スペシャル」(94年7月公開)が初めて単独で上演された作品となったが、第8作「釣りバカ日誌7」(同年12月公開)までは「男はつらいよ」との同時上演だった。しかし、「釣りバカ日誌」自体の人気も上々で、渥美が96年8月に亡くなったことにより、「釣りバカ日誌8」(同月公開)より、独立する形となり、松竹の看板映画に格上げしたのであった。
全22作に及ぶ作品群のなかで、本項では配給収入も高かった「釣りバカ日誌4」(91年12月公開/監督=栗山富夫/脚本=山田洋次、堀本卓、関根俊夫)を取り上げたい。同作の冒頭シーンは、産婦人科でのひとコマ。夫婦円満なハマちゃんと愛妻・みち子(石田えり)の悩みのタネは、なかなか子どもを授からないことだったが、ついに待望の懐妊が分かって、喜び合う。
一方、釣り仲間のスーさんは、自分の会社に就職させ、後継者として期待する甥・宇佐美和彦(尾美としのり)のことで悩んでいた。和彦はハマちゃんが所属する営業三課に配属されていたが、のんびり屋で覇気がないからだった。仕事より趣味の釣りに生きがいを感じるハマちゃんに惹かれる和彦は、ハマちゃんの家に度々遊びに行くようになる。和彦は、そこで釣り船・太田丸の船長・太田八郎(中本賢)の妹・町子(佐野量子)に出会い心を奪われ交際を始める。
そんななか、和彦の母であり、スーさんの妹である浪子(久里千春)が、医者の娘のお嬢様と見合いをさせるが、気乗りしない和彦は上の空だったのだ。そんな折り、ハマちゃんの家にやってきた町子が「今日泊めてもらえませんか?」と頼み込む。兄・八郎に和彦との交際を反対された町子は、家を飛び出してきたのだ。
意を決した和彦は、八郎のもとに乗り込んで殴り合いの大ゲンカ。その結果、和彦と町子は駆け落ちして和歌山の由良町に向かった。和彦は会社にファックスで「退職願」を送りつけ、スーさんは大慌て。ハマちゃんが居場所を知っていることを聞いたスーさんは、和彦を連れ戻すため、4泊5日予定の“出張”を許可。だが、ハマちゃんの第一目的はもちろん釣り。スーさんは「ぬけがけはするな」と釣りをすることを禁じた。ところが、ハマちゃんが和彦と町子がいる旅館に行ってみると、2人は「帰る」という。困ったハマちゃんは釣りができなくなるため、しばらく由良に留まってくれることを願い出る。
一方、和歌山に入ったスーさんはヘリコプターで、ハマちゃんの居場所を探して突き止める。ハマちゃんが乗った釣り船が出航すると、そこにはスーさんも乗っていたのだ。口論になりながらも、2人は仲良く釣りを楽しみ、戻った旅館で和彦と町子の結婚を承諾する。結局、体面上、和彦の退職願は受理され、2人の結婚式が行われる。ハマちゃんは来賓代表としてスピーチする予定だったが、みち子が産気づいたとの報が入り、病院に向かう。練習していたラマーズ法に取り組むハマちゃんだったが、酸欠となり失神。そこに、スーさんが駆け付け、産まれてくる子のおじいちゃんと間違われ、今度はスーさんが出産に立ち会い、ラマーズ法に臨むが同様に失神。それでも無事、みち子は長男を出産し、鯉太郎と命名された。
この一件が原因で、スーさんとケンカしていたハマちゃんだが、2人は太田丸に乗り込み、一緒に釣りに興じて幕。釣りが題材となった映画だが、その中に織り込まれた人間ドラマが作品の軸となっているため、釣りに興味がない人でも十分楽しめる内容に仕上がっているのが、同シリーズの魅力だ。この作品では、マドンナ役である佐野のキュートさが抜群に光っている。佐野といえば、トップジョッキーの武豊と結婚し、若くして芸能界を引退した。その意味では、同作は貴重な作品だ。
(坂本太郎=毎週金曜日に掲載)