日本が手本にしたはずのドイツでは、高騰する電気代に悲鳴を上げる市民が続出、料金を払えない“電気貧困世帯”が30万戸にも達し、深刻な社会問題になっている。挙げ句、「再生エネルギー政策は失敗だった」として、同政策を推進したメルケル首相への風当りが強まっているのだ。
日本のメディアは「脱原発ムードに水を差しかねない」として見て見ぬふりを決め込んでいるが、実は日本も“第2のドイツ”の道をまい進中といえるほどの状況だ。
再生エネの中核として期待が大きい太陽光発電は、昨年度の買い取り価格が1キロワット時42円だった(今年度は37.8円)。この価格は当時から「業者の言い値を丸呑みした」と酷評されるほど高く、ソフトバンクなどの異業種が続々と参入するきっかけとなった。その結果、メガソーラーの新設計画は2002万キロワットと、再生エネ全体(2109万キロワット)の9割超えを占め、ざっと見積もっても原発20基分に相当するこの夢のエネルギーに、世間は「これで脱原発へ一気に突き進む」と沸き立った。
ところが、実際に運転したのは197.5万キロワットにとどまった。9割以上が計画の認定を取り付けただけで、稼動を先送りしたのである。その裏に“ドイツ化”への不吉なシナリオが透けている。
「経済産業省は運転遅れの原因を『需要急増でパネルの調達に手間取っているため』としているが、高い買い取り価格の認定だけを取って、意図的に発電を遅らせる輩がいる。建設費の値が下がるのを待てば、それだけ利益が増えるからだ。この権利を売買するブローカーさえ暗躍しているのが実情。認定と実際の発電開始の時間差を認めたことから駆け込み申請が殺到し、これが金の亡者の跋扈を許している」(再生エネルギー事業関係者)
今年度は買い取り価格が引き下げられたとはいえ、それでも「十分ペイしてオツリがくる」(同)。まして買い取りが義務付けられた電力各社は、その費用を電気料金に上乗せして徴収するため、脱原発の象徴としての“太陽光狂奏曲”は止まりそうもない。
これを「千載一遇のチャンス」として対日攻勢に目の色を変えているのが中国の太陽光パネルメーカーだ。
中国勢は価格破壊を売り物に欧州市場を席巻した結果、ダンピング問題でヤリ玉に挙がり、この夏にはEU(欧州連合)が中国勢に対し価格、数量の両面で大きなタガをはめることで双方が手打ちした。中国勢とすれば、もはや欧州市場は妙味がない。そこで、欧州とは比較にならない高値購入に踏み切ったばかりの日本に狙いを定め、攻勢に打って出ようというのだ。
中国勢の舌なめずりを後押しするデータがある。太陽光発電協会が先に発表した4〜6月の太陽電池出荷統計によると、太陽光パネルの国内出荷量に占める外国企業の割合が29%になり、1〜3月に比べ3ポイント増加した。これはパネルの需要が拡大しているにもかかわらず、国内メーカーの生産能力が追いつかない状態を意味する。だからこそ中国勢が“黄金の島”と狙いを定め、一気にシェアを拡大しようとシャカリキになっている図式なのだ。
「迎え撃つシャープや京セラ、パナソニックなどは『品質では絶対に負けない』と自負していますが、だからといってシェア拡大には直結しません。というのもパネルを調達する異業種からの参入者は、揃いも揃って一攫千金をもくろんでいるからです。そんな一発屋にとって、圧倒的に価格が安い中国製は大変な魅力。いくら日本勢が『品質の良さとアフターケアを見てくれ』と力説しても、本気で耳を傾けるかは疑問でしょう」(大手電機メーカー)
脱原発の目玉に据えた太陽光発電で粗悪な中国製が爆発的に普及となれば、もはや皮肉でしかない。しかし、それがにわかに現実味を増してきたことは、日本の手本であるドイツの窮地が雄弁に物語っている。
「日本がドイツの悪夢再現に直撃されないとの保証はありません。そうなれば、脱原発とは裏腹にバカ高い電気料金を負担させられる国民こそ、いい面の皮。市場で日の丸勢を凌駕し、存在感を増す中国企業は、さぞ笑いが止まらないでしょう」(前出・再生エネ関係者)
折も折、ドイツでは9月22日に連邦議会選挙が行われたが、与野党はエネルギー問題について口にチャックを決め込んだ。双方が脱原発=再生エネの普及を推進した結果、電気料金の高騰を招き、国民の猛反発を買っているためである。
日本の太陽光発電は世界最大の2〜3兆円規模と試算されているが、その裏には大きな落とし穴が待っているようだ。