麻薬取締部の職員数は全国で約250人。たったこれだけの少人数で違法薬物の犯罪捜査に当たる。警察官同様、拳銃の所持も許された専門捜査機関だ。もともと米国の司法省麻薬取締局をモデルに戦後設置されたため、警察を教えた時期もあったという。
一方、警視庁など各都道府県の警察本部には銃器・薬物対策課があり、違法薬物の摘発に当たっている。両者はこれまで競い合って薬物犯罪を摘発してきたが、ここへきて中央省庁の出先機関の統廃合問題が浮かび上がった。
現在、地方分権改革推進委員会では「地方自治体と業務が重なるうえに、住民監視が行き届かない」などの理由と、税金の無駄遣いを省くため出先機関の統廃合を審議している。地方厚生局、建設局などその数は10に上るという。麻薬取締部が所属する厚生局も統廃合の対象になっているのだ。若者を中心に違法薬物犯罪の数が増えている現状で麻薬取締部がなくなる可能性はない。だが、過去には鉄道公安官が警察に吸収されたケースもあり、職員の士気と緊張感はこれまでにないほど高いという。
そうした「組織存亡をかけた警戒感が迅速、果敢な捜査の背景にある」(関係者)というのだ。OBのひとりは「職員の数は現在250名だが、将来的にはその倍以上ほしい」と語る。
「今の薬物犯罪は国境を越えた非常に大掛かりなものになっている。つい最近でも九州で中国からの密輸入とみられる覚せい剤300キロが押収された。こうした犯罪に対処するには、警察、税関、麻薬取締部といった垣根を取り外したオールジャパンで捜査に臨む必要がある。それとともに、麻薬取締部の捜査官の数をもっと増員しなければならない。違法薬物が氾濫するわが国にあっては、将来、公安調査庁的な省の外局にする必要があると思う」(前出のOB)
つい最近の早大生事件やAV女優と愛人テニスプレーヤーの事件などをわざわざ発表したのも「麻薬取締部の存在をアピールするため」(関係者)という。裏返せば、中央省庁の出先機関統廃合問題に絡んで、それだけ危機感があるということだろう。「餅は餅屋」と前出のOBはこうも話す。
「警察は逮捕して処罰されれば終わり。でも、麻薬取締官は違う。後々まで面倒を見るんです。再犯しないかどうか、刑務所から出てきてからも定期的に面会して、ぐらつきそうになる気持ちを支える。薬物犯罪はアフターケアがなければ絶対に減りません。その意味でも、麻薬取締部の規模は拡大することはあっても縮小してはいけない」
第3次麻薬、覚せい剤乱用期が発せられたのは1997年のことだ。覚せい剤に似た薬理作用がある合成麻薬MDMAの流入とともに、違法薬物の若者への浸透が社会問題になった。しかし、2001年以降、覚せい剤の検挙数は減少の一途。これは主に覚せい剤の北朝鮮ルートが絶たれたからだと警察庁は見ている。半面、昨年は大麻の検挙数が過去最大を記録した。