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〈企業・経済深層レポート〉 ホンダ「ハンターカブ」大ヒットの秘密

 1958年に初代モデルが販売開始され、’17年には世界生産累計台数が1億台を突破したホンダの「スーパーカブ」シリーズ。160カ国以上で販売されたロングセラーモデルで、言うまでもなく史上最も売れているオートバイである。そのホンダから6月26日、究極のアウトドアマシンともいうべき新型の原付二種レジャーモデル「CT125・ハンターカブ」が発売された。

 このCT125・ハンターカブは、カブシリーズの魅力である普段使いの気軽さに加え、郊外のツーリングやキャンプなどに適応していることが魅力。なんと、事前受注だけで年間販売計画台数の8000台を突破し、空前の売れ行きを示しているという。

 バイク販売店の関係者が解説する。

「CT125の車体は、’18年に発売されたスーパーカブC125がベース。最大の特徴は手軽で小回りが利き、丈夫で長持ちというカブの長所に加え、通常のカブより足回りが強化されているところです。さらに、マフラーが高い位置にあるため、水深の浅い川なら渡川も可能で、林道などの不整地でも乗れる。要はタウン向けとして便利であると同時に、休日には多少の冒険が可能なレジャー性をも兼ね備えたバイクです」

 その優れた機能性はもちろん、これだけの人気を呼んだ理由は他にもある。

「80年代初期にアメリカやオーストラリアをターゲットに輸出され、同時に国内販売もされたCT110・ハンターカブは、アップマフラーやガード類による悪路対応、減速比を変更して登坂力を高める副変速機など、不整地を走るための専用装備が与えられ、CT125の元祖とも言うべきものでした。ただし、海外では釣りや狩猟、郵便配達などに使うバイクとして親しまれたものの、当時の日本の若者にはやや敷居が高く手が届かなかった。話題のCT125は、そのCT110に現代のデザイン感覚と新技術も加えたものです」(同)

 アウトドア用品メーカーの関係者は、さらにこう解説する。

「当時のCT110シリーズに憧れたものの夢と終わった人たちが、今は小金持ちとなり、多少は懐と時間に余裕が出てきた。そんなシニア層が往年のCT110を彷彿させるCT125に興味を持ち、一斉に予約に走ったということでしょう。現状のバイク界は懐古趣味にとどまらないネオクラシックブームで、それもCT125が支持されている理由です」

 また、CT125の人気を後押ししている大きな要素に、世界中を恐怖のどん底に陥れている新型コロナウイルスがあるという。

 経済産業省の関係者が解説する。

「現在、多くの大企業やIT関連企業は、業務をテレワークに切り替えています。だが、資金的に移行が難しい中小企業やテレワークでは仕事にならないという業種もたくさんある。そのため、コロナ感染の確率を少しでも下げたい人たちの間では、3密を回避できるバイク通勤が増えているのです。車通勤は駐車場の問題があり、自転車は通勤距離に限度がありますからね」

 それはデータにも顕著にあらわれている。日本自動車工業会によれば、今年3月の国内2輪車の出荷台数は、対前年同月比7.3%増の3万6800台となり、3月期としては3年ぶりに増加しているのだ。これにはコロナ禍による通勤用バイクの購入が、大きく影響しているとみられている。

 さらに、コロナ禍の余波でキャンプブームが広がりつつあるのも、アウトドア用途に長けたCT125の追い風になっているという。

 日本オートキャンプ協会のデータによると、’18年のオートキャンプ参加人口は850万人で6年連続増加している。その端緒はキャンプを扱った漫画『ゆるキャン△』が大ヒットしたことや、芸人のヒロシがソロキャンプを中心とした話題で復活したことにある。つまりキャンプブームは、コロナ騒動以前から右肩上がりを続けていたのだ。

 スポーツ店関係者が、次のように分析する。

「このストレス社会の中で、数年前から静かなキャンプブームが始まっていました。コロナ感染が収束して都道府県をまたいでの旅行が解禁になれば、3密を避けられる大自然の中でのキャンプは、さらにブームになると予想されます。その点、CT125のリアキャリアは大型サイズで、少しかさばるキャンプ道具一式を楽に乗せられます」

 CT125に予約が殺到した理由には、コストパフォーマンス(費用対効果)の要素もある。

 経営コンサルタントが分析する。

「いくら大人の夢が実現するといっても、バイクの価格が途方もなく高ければ庶民はなかなか手が出ない。その点、CT125は税込みで44万円と決して安くはないが、マルチな利用度を考えれば購入してもいいと思える価格帯です」

 かくして、CT125が社会現象的なヒットを記録したところで、今後のバイク業界は果たしてどう動いていくのか。

 当然ながら国内外のバイクメーカーが、CT125の成功をこのまま指をくわえて見ているはずはない。今後、新たな競争が始まるのは必至である。

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