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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第375回 低レベルな「消費税減税反対」運動

 第二次補正予算が成立し、2020年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支、以下PB)の赤字が、少なくとも68兆円に達することが確定した。これまで散々に財政破綻論者の学者や政治家、ジャーナリストたちは、
「PB赤字を拡大すると、国が借金で破綻する!」

 と叫び続けてきたわけだが、国債金利はピクリとも動かず、日銀が「国債無制限買取」を宣言しているにもかかわらず、インフレにもならない。

 つまりは、何の問題もないわけだが、過去、散々に「財政破綻論」という嘘を叫び続けてきた財政破綻論者にとっては、まさに「それ」が問題なのだ。

 というわけで、破綻論者たちが巻き返しに出ているわけだが、正直、あまりにもレベルが低く、むしろ哀れに思えてしまう。

 例えば、森信茂樹がプロジェクトリーダーを務める、東京財団政策研究所は、6月8日に「緊急共同論考―社会保障を危うくさせる消費税減税に反対」と、消費税減税に反対する提言を公表した。同提言の共同執筆者には、小黒一正(法政大学経済学部教授)、小塩隆士(一橋大学経済研究所教授)、佐藤主光(一橋大学国際・公共政策研究部教授)、田近栄治(一橋大学名誉教授)、土居丈朗(慶應義塾大学経済学部教授)、西沢和彦(日本総合研究所調査部主席研究員)と、日本国を衰退させた主犯たる財政破綻論者たちが、ずらりと顔を並べていた。

 同提言の内容をまとめると、

●コロナ禍のような非常時において、大規模な財政出動でもって経済・国民生活を支えるべきことは仕方がないが、積極的財政であっても最低限の財政規律は守られなければならない(三橋注:「最低限の財政規律」の定義は不明)。

●新型コロナウイルスの感染拡大が終息した後の債務処理の方法(要は、コロナ増税)についても議論を深め、必要な準備を進めておく必要がある。

●消費税減税に反対

 の三つである。’11年の東日本大震災の復興増税と同様に、早くも「コロナ増税」の議論を始めるべきだと提言しているのだ。

 また、消費税減税に反対する理由は、

理由1 消費税減税で社会保障制度が危うくなる

理由2 消費税率を再び10%に戻すために莫大な政治的エネルギーが消費され、何年の歳月がかかるか予想がつかず、先人の努力を無に帰す

理由3 消費減税による税負担軽減効果は、高所得者が大きく、低所得者が小さい
 の三つであった。

 ちなみに、今回の二度の補正予算から明らかになった通り、我が国に「財政破綻」の問題など存在しない。将来的に社会保障制度の財源が不足したならば、単に政府が国債発行(=貨幣発行)をすれば済む話だ。

 そもそも、消費税による税収は、社会保障には使われていない。’14年度増税の際には8割が、’19年増税では5割がPB赤字圧縮のために使われた。つまりは、借金返済で、単に国民の所得を奪い取り、税収をブラックホールに投げ込んだだけだ。「社会保障制度のための消費税」というレトリックは、明確な嘘である。

 また、過去の消費税増税について「先人の努力」なる表現を使うわけだから、恐れ入る。国民の所得を奪い取り、国民経済をデフレ化させ、貧困化と小国化を招いた消費税増税が、それほど立派な業績なのだろうか。

 そして、理由の3。東京財団政策研究所の破綻論者たちは、消費税減税による「減税額」のみをクローズアップし、所得に占める消費税の割合を無視。その上で「高所得者に恩恵がいき、低所得者にはあまりいかない」というレトリックを展開しているのだ。

 税金の負担について考える際には、「税額」ではなく「税率」で考えなければならない。所得が多い人からは、より多額の税金を徴収する。所得が少ない人に対しては、徴税額を抑える。いわゆる応能負担が、税金の基本だ。

 税額で考えるべきというならば、理想的な税制が「人頭税」になってしまう。一人頭いくら、で税金をとるのが最もフェアだ。代わりに、格差が極端なまでに拡大するが。

 累進性の話は置いておいても、税金は所得に占める割合、すなわち「税率」で考えなければならないが、破綻論者たちは「税額」で比較し、「消費税減税による恩恵は、高所得者の方が低所得者より大きくなる」と、やっているのである。

 同提言に掲載された試算によると、消費税負担額は、

◆年収200万円未満 消費税負担額10万

◆年収1500万円以上 消費税負担額49.6万円

 とのことで、税率を引き下げた際の負担消滅「額」は、確かに高所得者層の方が大きい。消費額が違う以上、当たり前だが、そもそも高所得者層は消費税率など気にしない。何しろ、買い物のときに値札を見ない。
 理由は、所得に占める消費の割合が小さいためだ。すなわち、消費性向(消費÷所得)が低いのである。

 それに対し、低所得者層の消費性向は高い。年収200万円未満の場合は、ほぼ100%であろう。結果、消費税が所得に占める割合は、

◆年収200万円未満 5%

◆年収1500万円以上 3.3%

 となる。年収が低い者ほど、税率が高くなるのが消費税なのである。だからこそ消費税は、格差拡大効果が顕著な逆累進課税であると批判されている。

 そういう意味で、消費税は人頭税に近い。消費税が逆累進課税である限り、消費税廃止の恩恵は低所得者が大きくなり、格差縮小に貢献する。消費税が廃止されたとして、200万円の年収の人の所得が10万円増える価値は、1500万円以上の年収で49.6万円所得が増える価値よりも、間違いなく大きい。

 それにしても、ここまで子供だましのレトリックを駆使してまで、消費税減税反対の提言をしてくるとは驚いた。破綻論者たちが、そこまで追い詰められていると理解するべきなのであろう。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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