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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第370回 国債発行で国民の預金が増えた

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提供:週刊実話

 4月30日に成立した令和2年度(第1次)補正予算の目玉は、もちろん、「中小・小規模事業者等に対する新たな給付金(2兆3176億円)」、「全国すべての人々への新たな給付金(12兆8803億円)」である。つまりは、国民(含む企業)への「直接的な給付金」が、およそ15兆円。

 具体的には、中小・小規模事業者等に対する給付金(持続化給付金)が、100万円(個人事業主)、もしくは200万円(中小法人等)。すべての国民(厳密には住民だが)への現金給付が、1人10万円。

 国民や企業に「直接」支払われる15兆円のおカネが「どこから」出てくるのか、あるいは「調達されるのか」といえば、単に政府が国債を発行するだけである。政府が国債発行で日銀当座預金を借り、それを担保に「振り込み指示」で国民や企業の銀行預金を増やす。本当に、ただそれだけなのだ。

 筆者は、過去に繰り返し、「政府が国債を発行すれば、国民の預金が増える」が正しく、財務省やマスコミが主張する、「政府は国債発行で、国民の預金を借りている」が、完全に間違い(というかプロパガンダ)であることを解説してきた。

 今回の国債発行や現金給付は、まさに「政府が国債を発行し、国民の預金が増える」そのものだ。筆者と財務省、どちらが正しかったのか、すべての国民の目に明らかになったわけだある。

 図が、国民1人当たり10万円の「現金」を給付するプロセスになる。まずは、政府が12兆8803億円の国債を発行し、市中銀行から日銀当座預金を借り入れる(1)。もっとも、政府はわれわれ国民に日銀当座預金を「振り込む」ことはできない。何しろ、われわれは日銀に口座を持っていない。

 というわけで、日本政府は借り入れた日銀当座預金を「担保」に、市中銀行に「国民への振込指示」を行う(2)。実は、このプロセスは、われわれ個人が「当座預金」を担保に「小切手」を振り出すのと同じである。

 無論、小切手の場合は「振出人の負債」としての貨幣が発行されるのに対し、政府の振込指示は「市中銀行の負債」としての預金貨幣が発行される点は違う。とはいえ、特定の経済主体が「当座預金」を担保に、「誰かの負債」となる貨幣を発行するスキームという意味では全く同じだ。

 そして、政府からの振込指示を受けた市中銀行が、
「われわれ一般国民の銀行預金口座の数字を、1人当たり10万円ずつ増やす」ことで、国民1人当たり10万円の現金給付が完了する(3)。

 もっとも、市中銀行からしてみれば、政府からの指示で「一方的」に自らの負債としての預金貨幣を増やしたわけだ。当然ながら、市中銀行は政府に対し、
「自分が増やした預金貨幣という負債分を、清算してくれ」と、決済を求める。すると、日本銀行が「政府が保有する日銀当座預金」を該当金額分、市中銀行の日銀当座預金口座に移す。厳密には、日本政府の日銀当座預金口座(政府預金)の数字を消し、市中銀行の日銀当座預金口座(日銀預け金)の数字を増やすのだ。これで、決済完了である(4)。

 お分かりだろうが、図の「国債発行と国民への現金給付」において、「物理的な形状を持つ貨幣」は一切出てこない。動くのは、ただのデータだけなのである。

 今回の補正予算により、実際に政府から現金給付や持続化給付金を受け取ったとしても、「政府が国債発行すれば、われわれの銀行預金が増える」を否定する国民はいるだろうか。いるかもしれないが、せめて今回の現金給付が国民に明らかにした、以下の3つのポイントだけは押さえてほしいというか、納得してほしい。

1・日本政府が国債発行で借りる貨幣は日銀当座預金であり、われわれの銀行預金ではない
2・日本政府が国債を発行し、支出をすると、われわれの銀行預金が増える
3・国債発行と政府支出のプロセスが完了すると、最初に政府に貸し付けられた日銀当座預金が市中銀行に戻るため「政府が借りる金がない」などということは起こりえない

 特に重要なのが「2」だ。われわれというか「人類」は、頭の中を「商品貨幣論」で染め上げられ、つい「おカネとは物理的に有限なモノである」と、考えてしまう。

 金貨、銀貨で考えれば分かりやすい。この世に金貨・銀貨しかおカネが存在しなかった場合、世界中の貨幣を集めると「貨幣のプール」ができることになる。多くの人々は、何と「経済学者」まで含めて、仮想的な貨幣のプールの建設が可能と勘違いしているのだ。

 政府が国債発行で「貨幣のプール」から多額の金貨・銀貨を借りていくと、残ったおカネが少なくなる。すると、次に誰かが金貨・銀貨を借りようとした際に、「借りられる貨幣が少ない」というわけで、「国債金利が上がり、財政破綻する!」と、政治家もマスコミも、経済学者も国民も一様に叫んでいるわけだが、残念なことに貨幣は「モノ」ではない。債務と債権の記録、すなわち貸借関係である。

 金や銀といった貴金属には「物理的な量の限界」が生じるが、貸借関係にはない。例えば、国債は政府が「発行する」と決定するだけで、「市中銀行の債権、政府の債務」として発行される貨幣だ(図の(1))。政府はインフレ率(あるいは供給能力)が許す限りにおいて、国債という貨幣を「無限」に発行して構わない。国民の銀行預金の額は、政府の国債発行の制約条件にはならない。

 というわけで、政府の国債発行と「われわれの銀行預金」は全く関係がないのである。政府が借りる日銀当座預金と、われわれの銀行預金は、そもそも「次元」が異なる貨幣なのだ。

 それにもかかわらず、財務省は堂々と「政府は国債発行で国民の預金を借りている」と嘘八百を発信し、国民の危機感を煽り、緊縮財政を正当化しようとする。

 とはいえ、今回の1人当たり10万円の現金給付で、国民は知ったはずである。政府は国債発行の際に、国民の預金からおカネを借りているわけではない。それどころか、政府が国債を発行し、支出をすると、われわれの銀行預金の口座残高が増えたのだ。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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