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森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」 ★失敗に終わった緊急事態宣言

 4月7日に最初の緊急事態宣言を出したとき、安倍総理は、新規感染者数を2週間でピークアウトさせ、1カ月で収束させると言った。市中感染率の調査をせず、感染実態が分からないなかでの緊急事態宣言は、本連載でも「危険な賭け」と論じたが、安倍総理はその賭けに負けたのだ。そのため宣言期間を2倍に延長せざるを得なくなった。しかも、一律10万円の給付金や中小企業への最大200万円の持続化給付金の再支給には、言及しなかった。

 失敗した場合は、その原因を究明し、新たな対策を立てるのが常道だ。本来なら、失敗の原因を作った専門家会議のメンバーを変更し、新しい発想で対策を作り直すべきだが、安倍総理は、同じ対策をズルズルと続けようとしている。特に、今回の最大の問題は、全国一律の延長を決めたことだ。

 私は、感染実態を正確に把握した上で、「東京封鎖」をすることが最善だと考えている。これは極論ではない。小池百合子東京都知事は、ゴールデンウイーク直前に、「ステイ・ホーム」と「ステイ・イン・トーキョー」を打ち出した。これは、要請に基づく緩やかな東京封鎖だ。東京周辺の自治体の首長も、「いまは来ないで」というメッセージを次々に発した。これも緩やかな東京封鎖である。こうした対策を、もっと厳格にやるべきだ。

 なぜなら、新規感染者数を4月26日〜5月2日までの平均でみると、東京92人で約三桁なのに対し、埼玉11人、千葉7人、神奈川19人と、南関東3県は、ほぼ一桁少なくなっている。北関東は、群馬1人、栃木0人、茨城1人となり、東京から少し離れるだけで、感染者数は激減するのだ。

 また、東京は公表よりずっと多くの感染者がいる可能性が高い。厚労省が発表した1月15日〜4月19日までのPCR検査人数に対する陽性者数の比率(陽性率)は、全国が10%なのに対して、東京は40%と、4倍だった。ただ、なぜか東京だけは、検査人数に民間検査分が含まれていない。民間検査も含めて2倍の検査人数がいると仮定しても、陽性率は全国の2倍だ。そうした事情を考えると、東京の感染者が突出して多いことは、疑いようがない。

 今回、全国を宣言対象にした理由は、解除地域を作ると、そこに人が流入してしまうからだという。だが、それなら東京を封鎖すれば、地方への移動は防げるし、日本経済全体への悪影響も抑えられる。ただ、日本の場合は海外と異なって、法律上、都市封鎖はできないとされている。しかし、本当にそうだろうか。例えば、東京との県境をまたぐ列車の運行を禁止することは、実質的には可能だ。鉄道事業は認可事業だから、国が行政指導をすれば、すべての事業者が従うだろう。

 高速道路も、東京都との県境をまたぐ乗用車の通行を禁止することは十分可能である。高速道路会社の株主は、100%政府だからだ。もちろん、一般道経由での車移動、徒歩や自転車での東京脱出を抑えることは難しい。だが、列車と高速道路の寸断だけで、東京からの流出を大幅に抑制することは可能だろう。

 大感染地の封鎖は、世界の潮流であるにもかかわらず、こうした対策が一切出てこないのは、政策決定に携わる人の多くが東京都民だからなのかもしれない。しかし、いまは日本全体のことを考えるべきなのだ。

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