ソニーの今回の出資の狙いを探るには、世界でのソニーの立ち位置が重要になる。
ソニーといえばトランジスタラジオから始まり、ウォークマン、プレイステーション(以下、プレステ)などを世に送り出し、1990年代には「世界のソニー」として日本経済をけん引してきた。
ところが、2000年代に入るとIT化の波に翻弄され、新商品開発で後手にまわり一気に経営不振に陥る。’09〜’14年度には、5度の最終赤字を計上し倒産さえもささやかれていた。そのためソニーは本社移転や子会社を売却、さらに2万人におよぶリストラを行った。
「その結果、’18年度には当期純利益9162億円を叩き出し、過去最高を更新。営業利益率は10・3%と奇跡のV字回復を果たしたのです」(経営コンサルタント)
もちろん経営のスリム化だけでV字回復は難しい。ソニー復活には、二つの要因があると言われる。
「一つが、カメラにおけるソニー独自の優れた画像処理技術です。スマートフォンのカメラに採用されて市場シェアを伸ばし、世界市場の5割を占めるにまで至りました」(同)
もう一つの要因が、今回のビリビリ出資にも関連するゲーム&ネットワークサービス事業だ。ゲームメーカー関係者が言う。
「同事業は’18年度に3100億円という最高の営業利益を叩き出しました。その土台はプレステ4のソフト販売だが、営業利益が伸びたのは、それだけではありません。月額840円でオンライン対戦や、配信ゲームが遊び放題となる有料会員サービス『PSプラス』の導入です」
PSプラスは’10年からサービス開始。今や世界中に約3600万人の会員を抱える。
「つまり、現在多くの業界が採り入れているサブスクリプション(一定額を払うと期間中、サービスを利用し放題になるビジネスモデル)を先取りしたことで、世界最大の“ゲームサブスク”に成長させ、ゲーム&ネットワークサービス事業で年間3100億円の利益を叩き出すドル箱にしたのです」(同)
だが、そんなソニーに再び暗雲が垂れ込めてきた。
「グーグルが’19年にクラウドゲームサービス『スタディア』を、日本を除く14カ国でスタートさせた。スタディアはプレステなどのハードが必要なく、インターネットにさえ繋がっていれば利用可能で初期費用はほとんど掛からない。アップルも月額600円で100タイトル以上のゲームが遊べるサブスクリプションを始め、PSプラスを脅かし始めています」(ゲームメーカー関係者)
この影響か、ソニーの’19年第3四半期決算(’19年4月〜’19年12月)では、ゲーム&ネットワークサービス事業の利益が1922億円に落ち込む。
「こうした動きを踏まえた上での経営のテコ入れが、中国のビリビリへの出資理由と言われているのです」(同)
確かに中国のゲーム市場は右肩上がりだ。米調査会社「IDC」によれば、中国ゲーム産業の市場規模はモバイルをメインに約1兆7000億円(’19年上半期)、前年比8.6%増の伸びだという。ユーザー数は同6%増の6億2000万人と急増している。
そんな勢いのある中国でソニーが出資した「ビリビリ」とは、一体、どんな企業なのか。
ビリビリは、日本の動画サービス「ニコニコ動画」と同じように映像上に視聴者のコメントが活字として流れる異色の動画配信サイトとして’14年に創業した。
「これが中国のZ世代(’90年代後半から2000年に生まれた若者)から支持され、中国の本格的ゲーマーが集い始めた。そして、今や年40%台の急成長を遂げる。月間ユーザー数は約1億人を突破し、’18年にはアメリカナスダック市場に上場もしたほどの勢いです」(ゲームメーカー関係者)
中国のゲーム市場は、潜在規模5兆円とも言われている。
「中国ではエンタメ事業は政府の規制産業で、外国から進出するには現地企業との連携が絶対に必要です。そのためソニーは、早い段階から中国進出を準備し’16年からビリビリを通じて人気の高いモバイルゲームを中国で提供してきた。今回ソニーはビリビリに出資することで、アップルやグーグルに先駆けて中国市場を抑えようという狙いがあるのです」(同)
中国市場をソニーが抑えれば、「世界のソニー」の復活となるかもしれない。