サントリーホールディングスの「ノンアルコール飲料レポート2019」によると、国内のノンアルコール飲料市場は、2009年に約500万ケース(1ケース633ml入りの大瓶20本)だったが、’19年には約2265万ケースとなり4倍ほどの規模に拡大している。
さらに、業界関係者はノンアルコール飲料市場の拡大は「世界的な潮流」と指摘する。
事実、イギリスの調査会社ユーロモニターによると、世界のノンアルコールビールの市場規模は2018年で約126億ドル(約1兆3000億円)あり、今後はさらに伸びる可能性を指摘している。
世界的にノンアルコール飲料が伸びている要因はどこにあるのか。
「まず、味が格段に向上しました。本物のアルコール飲料と匹敵するぐらいおいしくなっています」(前出・業界関係者)
実際、先のサントリーのレポートにて、3万人の成人男女に対して行われたアンケート調査でも、1年前よりノンアルコール飲料の飲用量が増えた消費者の約6割が、その理由として〈おいしくなったから〉と述べている。
そもそも、国内でノンアルコール飲料の開発に拍車がかかったのは、’06年に福岡県福岡市において、飲酒運転で3児が死亡する痛ましい事故が起きたことが大きい。事故を契機に、’07年に飲酒運転など危険運転に対する罰則が強化され、宴席で酒が飲めない人のためにノンアルコール飲料の開発が始められた。
「しかし、サントリーのレポートではノンアルコール飲料を摂取する理由として、〈車の運転をする機会が増えたから〉と答えた人は約13%。やはり市場が大きく伸びた背景は味の向上が大きいのです」(同)
ノンアルコール飲料市場が拡大している2つ目の要因は「種類の増加」だ。フードアナリストが語る。
「ノンアルコール飲料といえば、以前はビールテイストが主流でした。最近は、ビール以外のアルコールテイストも増えています」
例えば、ワインだ。
「ノンアルコールのワインは、特に女性を中心に人気が高い。女子会やランチで飲まれていて、消費を伸ばす大きな要因になっています。昨年11月には、ボジョレーヌーヴォーを味わえるノンアルコールワイン『ヴィンテンス ピノ・ノワールヌーヴォー』が日本に初入荷されて話題を集めました」(同)
日本酒にもノンアルコールが生まれている。
石川県金沢市の老舗酒蔵の福光屋からは純米酒テイストの『零の雫』、京都の酒造会社・月桂冠からは、日本酒テイストの『月桂冠フリー』が発売されている。
味の向上、種類の増加に加え、ノンアルコール飲料市場が拡大する要因として「健康志向」もあるという。
前述のサントリーのレポートで、ノンアルコール飲料の飲用量が増えた理由として、2番目(約31%)に多かったのが〈休肝日をつくろう/増やそうと思ったから〉だった。
「酒の飲みすぎで肝機能の衰えや体脂肪増が気になる、といった理由からノンアルコール飲料を選択する消費者が増えている。飲料メーカーからも、健康効果が期待できる、と訴求する商品も出てきています」(広告代理店関係者)
例えば、昨秋発売されたキリンの『カラダFREE』は、体脂肪と内臓脂肪の低減に効果があるという。サントリーも、内臓脂肪を減らす効果がある成分を配合した『からだを想うオールフリー』を投入している。サッポロも尿酸値を下げる効能のあるノンアルコールビールを開発中だ。
密かなブームのノンアルコール飲料は今後、さらに市場拡大することが予測されている。その要素が“若者のアルコール離れ”だ。
厚生労働省「国民健康・栄養調査」では、飲酒習慣(週3日以上、飲酒日1日当たり2合飲酒)がある20〜29歳の男性は、’17年で約16・2%。’07年の30・7%と比べると約半減している。
「背景には低賃金で飲酒代に回すお金がないことも大きいですが、若者のアルコール離れは日本だけではない。ある調査によれば、イギリスでは’05年、飲酒ゼロの若者は18%だったが、’15年は30%に増えています」(経営コンサルタント)
アメリカでもミレニアル世代(1980年〜20000年代初頭に生まれた人)を中心に、酒を飲まない若者(飲めるが飲まない)が増えていて、ノンアルコール飲料を愛飲する人が多いという。
「この傾向は今後も高まることが予測される。アメリカでは、シリコンバレーを中心にノンアルコールビジネスに投資する動きが活発化しています」(同)
今後もおいしいノンアルコール飲料が生まれることに期待したい。