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【林田力のドラマ見聞録】大河ドラマに続き、『塚原卜伝』もファンタジー時代劇

 今週からスタートしたこのコーナー。各週のドラマの中で特に見どころのあったドラマを紹介する。
 今回はNHKの時代劇、大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』とNHK BS時代劇『塚原卜伝』を紹介したい。この2作は、共にファンタジー色の強い時代劇になった。

 『江〜姫たちの戦国〜』は10月2日に第38回「最強の乳母」を放送した。今回は江(上野樹里)に待望の男子(竹千代、後の家光)が生まれ、その乳母として福(富田靖子)、後の春日局が登場する。
 江と春日局の対立は江を描くドラマでは大きな見どころとなるが、史実を踏まえるならば江に分が悪い。何しろ江の主張が退けられ、春日局の思い通り家光が三代将軍になる。江の没後の話になるが、江が偏愛した忠長は自害させられた。江を正当化しながら、春日局との対立を描くことには脚本家の手腕が問われる。
 『江』の序盤は無愛想なものの職務を果たす福と、「何となく好きになれない」という理由で不快感を覚えるワガママな江という図式であった。そのために江は感情移入しにくい主人公になっていた。ところが、福が父親・斉藤利三を磔にした豊臣家に恨みを抱いていることが明かされる。その恨みの矛先は豊臣家の養女であった江にも向けられた。
 これは敬愛する伯父・織田信長を死に追いやった明智光秀を「憎めない」と語った江とは対照的である。天下泰平を望む江と豊臣家の滅亡を望む福という形で人物の優劣は明確化した。登場人物が現代人的な感覚で平和を望むこと自体が歴史から外れたファンタジーであるが、物語としては一貫している。スイーツ大河として我が道を歩んでいる。

 スイーツ化した大河ドラマに代わって、時代劇ファンの期待の星はNHK BS時代劇となった。こちらが「真の大河ドラマ」との声まである。もともとは史実重視の大河ドラマに対して娯楽重視の「土曜時代劇」とのスタンスであったが、土曜時代劇がBS時代劇に移り、往年の時代劇らしい重厚な作りになっている。
 同じ10月2日に放送を開始した『塚原卜伝』は2010年の大河ドラマ『龍馬伝』のような暗い画面で本格的な時代劇の趣である。番組終了後に番組ゆかりの地の観光案内を入れるなど大河ドラマの向こうを張っている。ところが、この『塚原卜伝』も『江』とは別の意味でファンタジー色の強いドラマであった。
 主人公の塚原新右衛門(堺雅人)は、いつもニコニコしており、が剣豪のイメージから離れている。堺雅人は『新選組!』で山南敬助を演じた。山南は北辰一刀流の使い手だが、新選組随一の良識派で剣豪のイメージとは遠かった。『篤姫』では病弱の将軍・徳川家定を演じ、ますます剣豪のイメージから遠ざかった。一方で塚原卜伝は「戦うことなく勝ちを収める」という無手勝流と知られており、宮本武蔵などとは違うタイプの剣豪像になる可能性がある。
 75分の拡大版となった初回は山賊退治に御前試合とテンポよく進む。まるで冒険しながら次々とミッションをクリアしていくロールプレイングのようである。対決シーンもスローモーションや人間離れしたジャンプなど娯楽色の強い演出になった。時代劇のファンタジー化は止まらない。

(林田力)

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