社会 2025年12月09日 08時00分
歯科技工士の減少による「入れ歯不足」 合わないものを使い続けて胃潰瘍になったケースも
競争激化で歯科医院の倒産が急増している。一方で歯科技工士の不足が問題になっている。5日放送のテレビ朝日系「モーニングショー」で解説した。帝国データバンクの「歯科医院」倒産・休廃業解散動向によると、2024年に発生した歯科医院の倒産(負債1000万円以上、法的整理)は前年比倍増の25件だった。休廃業・解散も101件発生している。経営難の理由はいくつかあるが、まず、全国には約6万8千軒の歯科医院があり、その数はコンビニエンスストアより1万軒以上も多い。とりわけ都市部では新規開業が相次ぎ、過当競争になっている。ほかには、院長の高齢化と後継者不在という他の業界にも通じる課題があるのと、患者が減っているという現実もある。少子化だけでなく、小児の虫歯自体が予防意識の向上やフッ化物の普及により減少しているのだ。歯科医師の世話にならなくて済むのは喜ばしいことだが、歯科医院の経営には打撃になっている。歯科医院が過剰になっている一方で、歯科技工士不足が大きな問題となっている。歯科技工士は、歯科医師の指示のもと、入れ歯・被せ物・詰め物・矯正装置・マウスピースなどの精密な歯科補てつ物(技工物)を、患者一人ひとりに合わせて作成・加工・修理する。番組で紹介した60代男性のケース。使っていた入れ歯が合わなくなり、歯科医師に相談すると、「作り直すと2カ月かかる」と言われ、そのまま使用したという。すると、体調が悪化し、胃潰瘍を発症したという。70代女性は、入れ歯が破損してしまったため新しく作ろうとしたが、1カ月半待ち。噛むことができないため、食事の大半がおかゆとなり、体重が約10kg減少して体力も低下したという。“入れ歯不足”は、作り手である歯科技工士の減少が原因なのだが、ピークだった2000年の約3万7000人から減少傾向が続いている。しかも現在は50代以上の割合が50%を超え、20代の割合が極端に低い状態だ。専門の養成機関で2年以上の修学期間を経て、国家試験を合格することが必要だが、国家試験の合格者数は、24年度は684人、15年度から4割減少している。歯科技工士が減少している理由として、長時間労働と低収入を指摘する声が多い。「時給に換算すると600円くらい」と話す人もいる。さらに、「もっと安くできる技工士がいる」と歯科医師側に言われると、技工士側は料金を下げざるを得ない状況になるという。歯科技工士の業務もデジタル化と機械化による技術的進歩で大幅な労働時間の短縮となってはいるが、オーダーメードの技術であることに変わりはない。職業的魅力がうまく伝わらなければ、歯科技工士の若手志望者はなかなか増えないだろう。