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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第218回 グローバリズムのトリニティ(後編)

 グローバリズムのトリニティ(三位一体)。
 グローバリズムは「自由貿易」「規制緩和」「緊縮財政」の三つがパッケージとなって推進される。緊縮財政、あるいは「財政破綻論」という基盤があるからこそ、自由貿易や規制緩和が説得力を帯びる。

 かつて、わが国の公共事業の入札は「指名競争入札+談合」によって受注されるケースが多かった。現在の日本では、指名競争入札や談合が、あたかも「悪」であるかのごとき認識が広がっている。とはいえ、そもそも指名競争入札と談合の組み合わせは、自然災害大国である日本において、土木・建設事業者間の健全な競争を維持しつつ、公共インフラの品質を改善し、かつ「各地域に土木・建設業者を存続させる」ために編み出された“先人の知恵”なのだ。
 偏見なしで「良識」に沿って考えてみれば、誰でも理解できる。世界屈指の自然災害大国であり、大震災までもが発生するわが国において、土木・建設業界を「完全市場競争」に委ねていいはずがない。市場競争に敗北した企業が片っ端から倒産していくと、「土木・建設業が存在しない地域」が増えていかざるを得ない(すでに、増えている)。

 大震災とまではいかなくても、わが国は雨季(梅雨)があり、台風も繰り返し襲来する国なのである。水害、土砂災害は毎年、いずれかの地域で必ず発生している。
 水害や土砂災害が起きたとき、真っ先に現場に駆け付け、被災者の救援やその後の復旧、復興事業に尽力してくれるのは誰だろうか。地元の土木・建設事業者である。
 何しろ、土木・建設事業者には人材があり機材もある。そして、これは何よりも重要なのだが、地元の情報を知っている。自衛隊といえども、情報なしでは何もできない。

 大規模自然災害は、いつ、どこで発生するか誰にも分からない。わが国では各地に確固たる供給能力を保有する土木・建設業界が存続しなければ、国民が生きられない。だからといって、業界に競争が存在せず、品質の劣化を招き、価格がひたすら上昇するのも問題だ。だからこそ、指名競争入札と談合の組み合わせなのである。
 指名競争入札の場合、公共事業を受注した企業が結果を残せないのであれば指名から排除される。指名に残るために、各社は公共インフラの品質を高めるべく、別に行政側が目を光らせていなくても懸命に努力する。また、指名された業者間の競争も、当然存在する。
 もっとも、指名業者間で「苛烈な競争」などとやってしまった日には、やはり敗者が生まれるのは避けがたい。業者が競争に敗北し、倒産もしくは廃業してしまうと、その地域から土木・建設業が消滅するという事態を招く。
 というわけで、指名競争入札で競争や品質向上を確保しつつ、談合(話し合い)により仕事を分け合うというシステムが進化したのだ。指名競争入札と談合が組み合わさってこそ、わが国では各地に土木・建設業を「競争」「品質向上」を伴う形で残すことができるのである。

 この日本型システムが「邪魔」な存在があった。もちろん、アメリカのベクテルに代表される外国の土木・建設業者だ。何しろ、指名競争入札や談合のシステムがある限り、外資系企業が日本の公共事業のプロジェクトを受注するのは不可能に近い。
 「指名競争入札や談合のシステムは、自由貿易や市場競争に反している。指名競争入札は一般競争入札とし、談合は禁止するべきだ!」
 という圧力が、1988年の日米建設協議以降、アメリカから継続的にかけられるようになった。結果、わが国の政府は「外国企業の参入等による国際化の進展、建設市場における公正な競争の確保の要請」に応じた制度改革を進めていった。すなわち、規制緩和だ。
 合わせて国内の公共事業について、外国企業が落札しやすいように仕様書の英語化も進んだ。つまりは、自由貿易である(もちろん、アメリカ国内の公共事業について、日本企業が落札しやすいように、仕様書を日本語化してくれるはずはないのだが)。並行して、わが国では特に「談合」が、まるで悪の権化であるかのごとくたたかれるようになっていった。

 談合が批判された主な理由は、
 「談合により、公共事業の落札価格が不当に釣り上げられている」
 というものだった。すでにして、日本国内には財政破綻論がまん延し、公共事業を「可能な限り安く実施する」という緊縮財政のコンセプトに沿った形で、談合が批判されていったのである。
 無論、土木・建設企業が、不当に高い価格で公共事業を受注していたならば、それは問題だ。とはいえ、特に'97年の橋本緊縮財政以降は、とにかく「削減ありき」で公共事業予算が目の敵にされ、合わせて談合が「違法化」されていったのである。
 揚げ句の果てに、2011年の東日本大震災の道路復旧、農地復旧の際の「受注調整」までもが、談合であると批判されている。非常事態において、復旧スピードを高めるため各社が話し合い、仕事を分担し合うことは「当たり前」だと思うのだが、わが国ではそうではないらしい。

 緊縮財政による公共投資、公共事業の削減に加え、公共入札の一般競争入札化、談合の禁止と、立て続けの攻撃を受け、わが国の建設業許可業者数は、ピーク('99年度)の約60万社から、'15年度には47万社を割り込むまでに激減してしまった。
 現在の日本は、すでに土木・建設業の業者不足、人手不足が深刻化する局面を迎えている。
 ならば「外国企業」や「外国人労働者」に依存するしかない、という話になり、カネ(投資)やヒト(外国人労働者)の移動の自由化という自由貿易が進む。
 実に、見事なスキームだとは思わないだろうか?

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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