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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第253回 アジアの片隅にある貧困の移民国家

 喫緊の日本国の課題として、プライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化目標破棄と同様に重要なのが「移民制限」である。特に技能実習生および留学生という名の外国人労働者の流入には歯止めをかけなければならない。

 厚生労働省の外国人雇用の届出状況によると、2016年10月末時点で、日本で働く外国人は108万3760人。内訳をみると、技能実習生が21万1108人、留学生が20万9657人となっている。
 「技能実習生」はあくまで実習生であり、外国人「労働者」ではない。先進国である日本がアジア諸国から「実習生」を受け入れ、現場で働くことで技能を身に着けてもらう。通常3年、最長5年間の「実習」の終了後は帰国させ、祖国に貢献してもらう。これが技能実習生の考え方だ(建前ではあるが)。また、留学生は日本に「学び」に来ているはずだ。とはいえ、現行法では留学生は資格外活動許可を受けることで、アルバイトとして働くことが可能になっている。
 資格外活動許可とは、アルバイト先に風俗営業または風俗関係営業が含まれていないことを条件に、週に28時間以内を限度とし、包括的な労働許可(事実上の)を与えるという仕組みである。もちろん、資格外活動の許可を受けずにアルバイトに従事すると、不法就労となる。
 さらに、'17年3月から東京、大阪、神奈川の国家戦略特区で解禁となった「外国人の家事代行」の場合、外国人メイドの日本における滞在期間は最長3年。3年がすぎると彼女らは帰国せねばならず、同じ在留資格での再入国はできない。ちなみに、彼女らは外国人労働者ではなく「外国人家事支援人材」と呼ばれている。加えて、わが国は「国内の資本・労働とは補完関係にあり、代替することが出来ない良質な人材」について「高度人材」として受け入れている。高度人材にしても、在留期間は5年と設定されているのだ(更新はできるが)。

 日本は、人手不足を言い訳に徐々に外国人労働者を受け入れ、移民国家への道を歩んでいるのだ。左図(※本誌参照)の通り、主要国の中で日本は最も若年層の雇用環境が「良い」状況になっている。世界に先行して少子高齢化となり、生産年齢人口比率が低下している以上、当たり前だ。だからこそ、危ない。
 間もなく、全体の失業率でもわが国は「完全雇用」の状況に至る。その状況で「生産性向上」により人手不足を埋めたとき、わが国は経済成長の黄金循環に入る。ところが、人手不足を移民で埋めてしまうと、実質賃金はさらに下落し、生産性向上も起きない。経済成長率は抑制され、わが国には「アジアの片隅にある貧困の移民国家」という未来が待ち受けている。
 移民反対論を唱える際に、筆者は「日本の文化伝統を守る」「外国人犯罪を防ぐ」といった論旨はあまり用いない。理由は、この種のレトリックで移民反対を説く識者は大勢存在しているためだ。逆に「生産性向上」「実質賃金上昇」「経済成長の循環」といった観点から移民反対論を展開しているのは、ほぼ筆者のみである。

 さて、移民反対論を主張する際に重要なのは、前述の「レトリック」に加えて、「他国の事例」に倣うことだ。他国が失敗した政策をわざわざわが国が推進する必要はない。最も注目すべきは、やはり移民国家化が社会の崩壊をもたらしつつある欧州諸国、特にオーストリアの事例であろう。
 オーストリアでは、12月18日、中道右派の国民党と、マスコミから「極右」とレッテル貼りされている自由党との連立政権が発足した。国民党党首、弱冠31歳のクルツ党首が、オーストリアの新首相に就任した。国民党と自由党は、共に10月の総選挙において、移民反対の公約を掲げて勝利した。特に自由党は「反移民」「反イスラム」の姿勢を示していた。
 新たにオーストリアの副首相となった、自由党のシュトラッヘ党首は、'89年、'90年にネオナチの活動に携わったとして、ドイツで拘束された経験を持つ。オーストリア自由党ほどの移民反対の主張を展開する政党が、EU(欧州連合)加盟国であるオーストリアの政権に就いたわけである。時代が大きく変化しているのを感じる。新政権発足日、ウィーンの大統領府では新内閣の宣誓式が執り行われた。大統領府の周辺では、「極右」とレッテル貼りされる自由党の政権入りに反対する団体が、デモ行進を繰り広げていた。
 オーストリア新政権は、移民・難民のオーストリア社会への統合を重視すると明言している。特に難民申請を認められなかった人については、祖国への送還を早めることについても政策的な合意がなされている。

 下図(※本誌参照)の通り、オーストリアの若年層失業率は2桁に達している。その割に、オーストリアの移民人口比率は、欧州でスイスに次ぐ2位なのだ。オーストリアの移民人口比率は、あのドイツすら上回っている。これで、国民の不満が高まらなかったら、そちらの方が不思議だ。
 もっとも、移民人口比率が17.46%にも達しているオーストリアが、今から移民制限に乗り出し、「オーストリア国民の国家」を取り戻せるのかは疑問だ。オーストリアの状況は「手遅れ」の可能性が高い。これこそが、移民問題の最も恐ろしい点だ。また、移民問題は国民を分断する。実際、オーストリアでも「反移民政権」誕生に反対するデモが起きているわけである。
 移民問題は、「国民対移民」という問題に加え、「国民対国民」という争いをも生み出す。移民流入それ自体に加え、移民に対する「考え方」「姿勢」までもが、ナショナリズム(国民意識)を破壊するのだ。

 わが国はオーストリアに倣い、「手遅れ」になる前に移民制限に乗り出さなければならない。
 日本国民は、果たして、
 「アジアの片隅にある貧困の移民国家」
 を望むのか? という話なのである。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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