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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 とんでもない悪魔を産んでしまった

 6月29日、参議院本会議で働き方改革関連法案が与党、日本維新の会などの賛成で可決・成立した。
 罰則付きの残業時間上限の導入や同一労働同一賃金など、一見、労働者に寄り添った内容が含まれるように見えるし、安倍総理自身も、「多様な働き方を支える条件が整った」と自画自賛しているから、労働者への悪影響がないように感じられるかもしれない。だが、今回の法案は、サラリーマンの生活を根底から破壊する恐ろしい悪魔になっていく。それが、高度プロフェッショナル(高プロ)制度の導入だ。

 高プロは年収1075万円以上で、金融ディーラーなどの専門的知識を必要とする労働者を対象に、労働時間管理をやめて、成果に基づく評価を可能にする労務管理制度だと言われている。「それなら、自分には関係がない」と思う人が多いだろう。しかし、そうはいかないのだ。
 法律では、対象職種は厚生労働省の省令で決めることになっている。だから、導入時はともかく、すぐに対象職種が広がっていくことになる。
 例えば、派遣労働法ができた1986年、派遣業務の対象は専門的能力を必要とする13業務に限定されていた。しかし、どんどん規制緩和が進み、1999年には、一部の例外業務を除いて原則自由になってしまった。同じことが起きるのは、確実なのだ。

 それでは、どこまで対象が広がるのか。日本経団連が、高度プロフェッショナル制度と同じ仕組みである「ホワイトカラーエグゼンプション」の導入を提言した時、対象とする年収は400万円以上だった。
 また、米国にはすでに同様の制度が存在するが、米国でも導入後に、適用年収が引き下げられ、現在は年収200万円以上が対象になっている。将来的には、すべてのサラリーマンが、高度プロフェッショナル制度の対象になっていく可能性が高いのだ。

 それでは、高度プロフェッショナル制度の対象者になると何が起きるのか。実は、法律面で言うと、高度プロフェッショナル制度は、労働基準法に次のような条文を加えるだけだ。「労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない」。
 例えば、一般の労働者は、所定労働時間を週40時間以内にしないといけないが、高プロ対象者は、毎日午前6時から、深夜2時まで働けという所定労働時間を定めることも可能なのだ。休憩を取らせる必要もない。さらに深夜残業をいくらでも命じることができ、その対価の支払いは一切不要だ。
 管理職でも深夜の割増賃金は支払われるのだが、高プロ対象者には、それもない。高プロ対象者に唯一許されている権利は、年次有給休暇のみだ。
 これだけ企業側がやりたい放題になる一方で、企業をしばる条文は一切ない。まさに高プロ制度は、労働者の人間性を否定する定額使い放題プランである。

 あえて言おう。私は厚生労働省が、おかしくなってしまったのだと思う。かつては、労働者の権利を守る国民の味方だったのが、いつの間にか財界の手先に堕落し、いまや働く人の生活を根底から破壊する先兵になってしまった。こうなると、厚労省はもう要らないのではないか。

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