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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第335回 属国日本からの脱却

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提供:週刊実話

 8月25日、フランスのG7サミットにおいて日米首脳会談が行われ、日米貿易協定(要はFTA)の交渉が基本的合意に至った。

 日本側は、TPPと同じように畜産物等の関税を引き下げる。アメリカ側は、TPPで合意していたはずの自動車の関税撤廃を「なかったこと」とし、一切の譲歩なしで日本の農業市場開放(市場規模約7000億円)という成果を手に入れた。トランプ大統領としては、自分は何も相手に与えず、日本側に一方的に譲らせたわけで、さぞや満足のいくディール(取引)だっただろう。

 もっとも、合意内容以上に話題になったのが、安倍総理が、貿易協定とは別に、アメリカ産飼料用トウモロコシを購入する考えをトランプ氏に伝えたことである。米ホワイトハウスは、
〈“We have excess corn in various parts of our country with our farmers because China did not do what they said they were going to do. And Prime Minister @AbeShinzo, on behalf of Japan, they're going to be buying all of that corn.” ― President(訳:アメリカの各地で、農家がトウモロコシを持て余している。中国がやる〈買う〉と言ったことをやらないためだ。そして安倍総理が日本を代表し、それらトウモロコシをすべて買ってくれる。大統領〉
 とツイートし、トランプ大統領もリツイートしている。

 つまりは、米中覇権戦争の影響で、中国がアメリカ産トウモロコシを買わず、在庫が過剰になっている。それを、安倍総理が購入すると約束したのだ。

 ちなみに、ブルームバーグ紙の上級国際政治レポーター、Jennifer Jacobs氏のツイートによると、トランプ大統領は余剰トウモロコシについて、
「Abe says,well, Japan's private sector will be buying the corn.(訳:安倍首相が言うには、日本の民間セクターがトウモロコシを買うとのことだ)」
 と、語ったとのことである。

「民間セクター」で膨大なトウモロコシを購入することができるのは、全農(全国農業協同組合連合会)くらいしか思いつかないが、日本政府は農協改革(全農の株式会社化)を利用した圧力か何かで、トウモロコシ購入を“要求”するのだろうか。

 全農でなかったとしても、総理が「トランプ大統領と約束したからトウモロコシを買え」と、民間に強要した場合、憲法22条(1項)違反になる。日本の民間(※農協含む)は、憲法により職業選択の自由を保障されている。職業選択の自由には「営業権の自由」も含まれる。

 8月27日、菅官房長官は閣議後の記者会見で、トウモロコシの害虫被害が九州を中心に11県で広がっているとして、
「(日本国内で)飼料用のトウモロコシの供給が不足する可能性がある。このことが首脳会談で話題になった」
 と、説明した。属国として宗主国様(アメリカ)の要求を受け入れたのではなく、日本の都合でトウモロコシを購入すると言い訳をしているわけだが、東京新聞(2019年8月27日「トウモロコシ追加購入に補助金 日米貿易首脳会談 理由の「害虫被害」わずか 年間輸入3カ月分275万トン」)によると、アメリカから購入予定のトウモロコシは何と275万トン。日本が年間にアメリカから入れているトウモロコシ(主に配合飼料向け)の3分の1の規模に達する。

 しかも、同じく東京新聞の記事によると、トウモロコシの害虫被害はさほど広がっておらず、「現時点では通常の営農活動に支障はない(農林水産省植物防疫課)」のである。さらに、日本で害虫が発生しているトウモロコシは、アメリカで余剰になっているトウモロコシとは、栄養価が異なるのだ。つまりは、単純に「日本でトウモロコシに害虫被害が起きているため、アメリカ産で代替する」ことは、困難なのである。

 要するに、防衛面の安全保障をアメリカに依存している「属国日本」は、米中の争いにおいて「不要で膨大なアメリカ産トウモロコシを引き受ける」形で、尻拭いをせざるを得ない立場なのである。それにも関わらず、自国がアメリカの属国であることを認められない政治家たちは、懸命に言い訳し、自国民を騙さざるを得ない。これが、日本の現実なのだ。

 興味深いことに、宗主国(アメリカ)から不要なトウモロコシを大量に購入する羽目になった安倍政権について、日本国内では懸命に庇おうとする声が次々に発せられている。

 特に多かったのは、菅官房長官の発言を引き合いに出し、
「日本は害虫被害でトウモロコシを購入するだけだ。アメリカは余剰トウモロコシを売却でき、日本は必要なトウモロコシを購入でき、ウィン・ウィンだ」
 といったレトリックである。

 現実には、アメリカ産トウモロコシでは、日本で害虫被害を受けている飼料の代替にはならない。かつ、そもそも量があまりにも多すぎる。

 日本は宗主国アメリカ“様”の要求に逆らえない、属国である。この事実を認めたくないために、見事なまでに認知的不協和に陥っているわけである。

 いい加減に、正しく現実を認識する必要がある。
「いや、安倍総理は必要だからトウモロコシを買ったんだ!」

 などと認知的不協和を丸出しの惨めな態度をとるのではなく、日本が正しく「アメリカの属国」であることを認めた上で、状況を改善するためにどうするべきか、国民一人一人が考え、行動に移すべきだ。

 具体的には、まずは財政拡大路線への転換と、デフレ脱却。存在しない「財政破綻論」「財政問題」とやらを捨て去り、予算増額により防衛力を強化する。その上で、日米安全保障条約の発展的改訂(日米地位協定の改正)、占領軍(在日米軍)の撤退と、やるべきことをやらなければならないのだ。

 とにもかくにも、すべてのボトルネック(制約条件)である緊縮財政を打破し、当たり前の主権国家として「自国を自国民で守るための防衛力強化」に乗り出すのである。日米安保条約は、「アメリカとパートナーシップを維持し、アジアの平和・安定に寄与する」形で改定し、在日米軍は段階的に縮小する。

 現在の日本がアメリカの属国であることは、我々の責任ではない。とはいえ、自主独立に向けた努力を怠ったとしたら、それは我々の責任なのだ。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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