日本の景気は明らかに後退期に突入している。9月こそ消費税増税前の駆け込み需要で前年比プラスとなったが、商業販売額は8月まで9カ月連続の前年割れが続いた。輸出は9月まで10カ月連続で前年比マイナスが続いている。
鉱工業生産指数も、四半期ごとにみると、今年に入って、第1四半期から第3四半期まで、すべてが前年同月比マイナスだ。
景気全般を表す景気動向指数の基調判断は、8月分で、景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」に下方修正された。悪化となったのは4カ月ぶりだ。
何より深刻なのは、物価だ。消費者物価指数(生鮮食料品を除く総合)の前年比上昇率は、昨年は0.9%だが、今年に入って上昇率がずるずると下がった。9月は前年比0.3%の上昇と、デフレに再突入する寸前まできている。こうした状況のなか、日銀は金融政策決定会合で、将来のさらなる利下げの可能性を示唆した。
今のところ消費者心理の悪化はないが、電気・ガス・水道などが軒並み増税されたのだから、実質所得減による消費へのマイナスの影響が確実に表れてくる。日本経済が、再びデフレの悪夢に襲われる可能性はきわめて高いと言えるだろう。
それなのに、なぜ株価が上昇しているのか。私は、景気が悪化するなかでも、企業が利益を確保する行動に出ているからだと思う。
例えば、セブン&アイ・ホールディングスがグループ従業員を3000人規模で削減することを発表したが、この大リストラは、セブン&アイ・ホールディングスが過去最高益を達成するなかで発表されている。
かつて、リストラは企業にとって最後の手段だった。会社の経営が行き詰まってどうしようもなくなったときに行ったのだ。しかし、いまは利益を守るためにリストラが行われる。東京商工リサーチによると、2019年1月から9月に希望・早期退職者を募集した上場企業は27社に達し、対象人数は6年ぶりに1万人を超した。希望・早期退職募集した企業のなかには、もちろん業績が悪化した企業もあるが、カシオ計算機のように好調な企業も多い。
企業が雇用を絞るなかで、有効求人倍率も、昨年4月から続いていた1.6倍台から転落し、今年7月には1・59倍、9月は1・57倍とさらに下落している。
しかし、企業がリストラを進め、人件費を圧縮することで利益を拡大しようとしても、そこには限界がある。人件費は、労働者の所得であり、それが減れば、消費も住宅投資も落ちていく。そうなれば、企業の売り上げ自体が減っていくのだから、企業は利益を増やせなくなるのだ。深刻な不況のなかで株価だけが高くなるという、これまでに経験したことのない事態に我々は直面している。
この事態は続き、日本の株価はさらに上昇していくという見方をする評論家も多い。だが、私はそんなことはありえないと思う。人件費圧縮で利益を生み出すのは、天に唾する行動だ。近々、日本の株価は暴落を起こす可能性が、きわめて高いのではないか。