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〈企業・経済深層レポート〉 前CEOがクーデター 住宅設備大手LIXILのトップ人事が泥沼化

 売上高1兆8000億円を超える日本最大の住宅設備メーカー「LIXILグループ(以下、リクシル)」が、経営のトップを巡る人事で荒れている。昨秋にCEO(最高経営責任者)を事実上解任された瀬戸欣哉氏が、4月早々に記者会見を開き、6月の定時株主総会で、自身を含む8人を取締役として選任するよう株主提案すると発表。つまり、解任された前CEOが、会長兼現CEOである創業家一族の潮田洋一郎氏にクーデターを仕掛けたのだ。

 大手企業のリクシルで、一体何が起きているのか。まず、リクシルという企業の成り立ちを振り返っておこう。

 そもそもリクシルは、トステム、INAX、東洋エクステリア、新日軽、サンウェーブ工業の5社が統合して誕生した会社だ。

 「リクシルの母体になっているのはトステムで、そのトステム創業者が、洋一郎氏の実父である潮田健次郎氏です。健次郎氏はトーヨーサッシ(後にトステム)を一代で日本最大の住設機器メーカーに育てた立志伝中の人物で、2006年には売上高1兆円を達成し、それを花道に引退しました」(業界記者)

 後継には、リクシルの現CEOである長男の洋一郎氏が選ばれた。しかし、この人事に業界関係者は誰もが唖然としたという。

 「洋一郎氏は、茶道具の収集や、自動車レースのF3000に参戦するほどモータースポーツに入れあげていた趣味人で、商売一筋の父親とは反対に経営者にはほど遠い人物と、業界ではもっぱらの評判でした。経営者向きではないと自覚した洋一郎氏は、外部からプロ経営者を招き入れることにしたのです」(同)

 その人物は、アジア人として初めて米ゼネラル・エレクトリック経営陣の一翼を担った藤森義明氏だ。

 2011年にリクシル(当時は住生活グループ)のCEOに就任した藤森氏は、リクシルをグローバル企業へと転換するために、海外企業のM&Aに乗り出す。

 例えば、衛生陶器の米アメリカン・スタンダードといった、設備業界での世界的名門企業を次々と買収した。結果として、リクシルの売上高は1.5倍に拡大し、海外売上高比率も3割に伸びた。

 しかし、2014年にドイツの水洗金具大手「グローエ」を4109億円で買収したところ、グローエの中国子会社に巨額の簿外債務があったことで、2016年3月期の決算では、256億円の最終赤字を出してしまう。

 「業績が悪化したことで潮田氏は、三顧の礼で招いた藤森氏の首を簡単に切りました。その藤森氏の後任として迎え入れたのが、工具の通信販売会社『モノタロウ』を創業し、東証1部に上場させたプロ経営者の瀬戸氏です。瀬戸氏は藤森氏の海外拡大路線を修正、さらに不採算事業を整理して財務体質の強化をはかりました。結果、2018年決算での純利益は、545億円と過去最高を記録したのです」(業界通の経営アナリスト)

 ところが、潮田氏は瀬戸氏とも対立してしまう。対立した原因は何か。

 「一つは、両者の経営戦略が大きくズレていたこと。瀬戸氏は、海外事業の拡大はリスクが大きく、国内事業の再建を優先する一方で、国税から遺産相続がらみで度重なる追徴課税を受けた潮田氏は『日本は滅びる』とシンガポールへの本社移転や、海外事業強化を打ち出しました」(同)

 もう一つの要因として、瀬戸氏が導入した「新取引制度」があるという。

 「『新取引制度』は取引額に応じて取引先への納入単価を自動的に決めるもので、業務は大幅に効率化される。しかし、導入後に実質値上げとなる取引事例が相次ぎ、顧客がYKKAPなどのライバル社に大量流出させてしまったのです」(同)

 この制度を導入した結果、リクシルは2019年3月期の業績予想を下方修正し、事業利益は450億円と当初見通しより低くなった。

 「創業家として君臨する潮田氏が、自分の意見と異なってきた瀬戸氏が邪魔になり、解雇したというワンマン劇場が昨年秋に起きました。一度は辞任を受け入れた瀬戸氏でしたが、冷静になり、自分の解雇がいかに理不尽なものだったかと振り返り、社内の有力勢力と組み反転攻勢に出た構図です」(同)

 瀬戸氏のクーデターには、英マラソン・アセット・マネジメントなどの海外機関投資家やリクシル内部関係が賛同しているだけに潮田体制は厳しい立場に追い込まれるという見方もある。

 ただ、泥沼化したトップ人事騒動によって内部がバラバラになれば、リクシルという日本最大の設備企業そのものが、業界トップから陥落しかねない。

 一刻も早くこの騒動を終結させることが、会社の戦略として重要だろう。

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