しかも、どんなタイプの性犯罪が公共交通機関内で起こるか、被害に遭った場合はどうするかなどを示したポスターを張って注意を呼び掛けている。
日本ならこれだけで抑止力になるだろう。ただし「防犯カメラがあるからこそ、ハードルが上がって燃える」と痴漢行為に邁進するタイプもいるが…。
2016年の法改正によって、警察はより簡単に痴漢を公共交通機関内で逮捕できるようになったことから、性犯罪に対処するための専門の警察官が駅や車内を巡回している。
それでも限界がある。フランス・パリ交通公団などは日本ほど満員電車になるわけでもないが、通勤時は混雑しているからカメラでは判断しにくく、巡回する警察官も大量動員できるわけでもない。そこに新兵器が投入された。『RATPアプリ』(RATPはパリの地下鉄の会社名)だ。
「以前は痴漢に遭った場合は駅の職員に直接、もしくは構内にある端末を使って伝えるしかありませんでしたが、16年の法改正以降、被害者がもっとすばやく通報できるように20、3117の番号に電話やSMS(31177)で通報できるようになったのです。スマホでアプリをダウンロードしておけば、番号を覚えておかなくても簡単にすぐに電話やメールで通報できる仕組みです。この番号は痴漢被害だけでなく、盗難被害や暴行被害、そして容態が悪くなった場合に助けを求めることもできる優れモノです。最寄駅の警察などとつながっている痴漢通報専用アプリとして使えますから、例えば日本なら埼京線など路線名や車両番号、相手の特徴などを分かる範囲で、とにかくリアルタイムで迅速に通報できるシステムです」(欧州在日本人ライター)
日本も110番が「メール110番」というサービスも導入しているが、これの発展版と言える。
しかし、あまりにリアルタイム過ぎて、加害者が気付き、余計に嫌がらせや攻撃をしてくることもある。加害者がさっさと降車してしまったり、車両を変えたら一瞬で分からなくなってしまう可能性もありだ。
そこで民間企業が開発したのが『App-Elles』というアプリだ。これはワンクリックで登録してある家族や友人に助けを求めるメッセージをGPSでの位置情報付きで自動的に送ることができるものだ。
メッセージを送った瞬間から録音機能が作動し、犯人とのやり取りを録音することで、後に裁判の証拠として利用することもできる。このアプリを作成したアソシエーションは同様の機能を搭載したブレスレットの販売も始まっている。
ブレスレットのボタンを4秒押すだけで作動するので、スマホをカバンから取り出す時間を省くことができるし、通報していると犯人にもバレにくいので、より安心して通報することができる。人間版ドライブレコーダーというところか。
『HandsAway』は、車内で何らかの性犯罪被害に遭った場合、どんな被害に遭ったか、犯人の特徴などを被害に遭った位置情報とともに周辺にいるこのアプリをダウンロードしている人すべてに通知することができる。通知を受け取った人は、直接その被害者とコンタクトを取って、現場に駆け付けたり、どういう対処をすべきかなどの相談ができる。
日本でも痴漢対策専用ではないが、痴漢被害にも使える警視庁公認のアプリなどが増えてきている。しかし、ここまで徹底したところで、日本人特有の「会社に遅れるから」とか「犯人に恨まれるのはイヤ」などの理由で「見て見ぬふり」されれば何にもならない…。