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やくみつるの「シネマ小言主義」 知られざる国際援助活動家たちの姿 『ロープ/戦場の生命線』

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提供:週刊実話

 邦題としてつけられた『ロープ』。停戦直後の紛争地では、こんなありふれた日用品がいかに貴重なのか、日常生活がどれだけ破壊尽くされて「常識が通用しない」状況にあるのかを象徴するものとして、タイトルに選ばれています。ただ、この邦題で小ジャレた「厭戦」映画の面白さが伝わりますかどうか…。
 原題は『A Perfect Day』。思うように事が運ばない「さんざんな1日」という逆説的な意味でしょう。似たような原題に『the Longest Day』があって、これには『史上最大の作戦』という秀逸な邦題が付きました。うーん、こんな風に一発でそそられる邦題を付けるって難しいですね。

 NPO団体『国境なき水と衛生管理団』の活動を描いたこの映画。派手な戦闘シーン満載の戦争映画のような英雄は出てこず、やってる活動も井戸や便所のメンテナンスと、確かに大切なことなんですが、一見、地味です。
 ただ、脚本が実によくできていて、テンポもいい。ベニチオ・デル・トロやティム・ロビンスが演じる活動家たちも、女たらしだったり、しょうもない冗談好きだったりと人間臭く、戦争の不条理やむなしさが、そこはかとないユーモアをまとって、ひしひしと伝わってきます。
 世界的な反戦ソングの『花はどこに行った』がラストで効果的に使われ、「絶対に戦争はイヤだ!」という「厭戦」感が押し付けがましくなく心に刺さってきます。
 カンヌ映画祭でスタンディングオベーションがやまなかったのも納得なので、ぜひご覧いただくようおすすめします。

 この『国境なき水と衛生管理団』という活動が実在するのか、それとも『国境なき医師団』をもとにしているのかは分かりませんが、「水」が人間の命と直結する存在であることは、戦時下でも平時でも変わりません。
 私は休みごとに世界の辺境地を旅して回っているのですが、水道を通す発想がない地域も多くて、大資本の企業がペットボトルの水で独占的な商売をしているのも、ごく普通のことです。
 エチオピアに行った時のことです。子供たちが「ハイランド! ハイランド!」といってまとわりついてくるので、てっきり「高原の国にようこそ」くらいの意味かと思い、こちらもニコニコして「ヘーイ!」などと応えていたのですが、実は「ハイランド」は水の商品名でした。
 子供たちは、旅行客に高くて買えない「安全な水」を分けてくれとねだっていたのです。後で知って、己の無知を恥じ入りました。

画像提供元
(C)2015 REPOSADO PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS, S.L.AND MEDIAPRODUCCIO´N S.L.U.

■『ロープ/戦場の生命線』監督/フェルナンド・レオン・デ・アラノア
出演/ベニチオ・デル・トロ、ティム・ロビンス、オルガ・キュリレンコ、メラニー・ティエリー
配給/レスペ

 2月10日(土)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー。
 1995年、内戦終結直後の旧ユーゴスラビア。停戦直後のバルカン半島にある村の井戸に死体が投げ込まれ、生活用水が汚染されてしまう。国際NGO『国境なき水と衛生管理団』のメンバーは、死体の引き上げを試みるが、運悪くロープが切れてしまう。仕方なく、代わりとなる1本のロープを求めて、危険地帯をさまよっていたところ、少年ニコラと出会い、彼の住んでいた家に向かった。しかし、そこで見たものは、内戦の悲劇と癒えることのない深い傷跡だった。

やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。

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