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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第251回 橋が通行止めになっていく国

 1997年以降、公共投資を減らしに減らし、一般競争入札化、談合禁止といった規制緩和により土木・建設企業を痛めつけ、世界屈指の自然災害大国でありながら、土木・建設の供給能力を減らしていった。結果的にデフレーションが継続し、政府や自治体の財政悪化も進み、わが国はいかなる国になり果てたのか。
 すでに生活やビジネスのための基本インフラである「橋」を直せない国へと落ちぶれてしまった。

 '14年、国土交通省の審議会は、「最後の警告」と題する提言をまとめた。提言では、
 「ある日突然、橋が落ち、犠牲者が発生し、経済社会が大きな打撃を受ける…、そのような事態はいつ起こっても不思議ではないのである」
 「今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切らなければ、橋の崩落など人命や社会システムに関わる致命的な事態を招くであろう」
 と、行政の文章としてはかなり強烈な表現で、インフラのメンテナンスを訴えていた。

 本提言を受け、国土交通省は地方自治体などの道路管理者に5年ごとの定期点検を義務付けることとなった。点検が進むにつれ、わが国のインフラの「恐るべき実体」が明らかになっていく。
 国土交通省によると、全国の自治体管理の橋の老朽化が進んだ結果、すでに'16年4月時点で2559の橋が通行止めや片側通行などの規制をしている。国土交通省が自治体に橋の点検強化を求めた結果、規制せざるを得ない橋梁数が8年前の2.6倍に拡大。生活に影響が出ているが、財政上の理由、つまりは「カネ」の問題で改修が進んでいない。

 国土交通省のマニュアルによると、点検時に橋は以下の4つの判定区分に分類される。
 1.健全 構造物の機能に支障が生じていない状態。
 2.予防保全段階 構造物の機能に支障が生じていないが、予防保全の観点から措置を講ずることが望ましい状態。
 3.早期措置段階 構造物の機能に支障が生じる可能性があり、早期に措置を講ずべき状態。
 4.緊急措置段階 構造物の機能に支障が生じている、又は生じる可能性が著しく高く、緊急に措置を講ずべき状態。

 埼玉県加須市において、判定区分4に認定された橋が4基。加須市は「一気に直すのは予算的に難しい」と、判定区分4の橋を通行止めにしている。滋賀県米原市は、判定区分4に認定された橋を「架け替えは費用が高額」として、撤去した。
 専門家の調査によると橋の老朽化が進んだ結果、今後50年間に全国の自治体で橋の維持管理や改築に必要となる費用は約27兆3000億円。1年当たりに換算すると、およそ5500億円に上るとのことである。すばらしいことだ。何しろ、わが国はデフレーションという総需要の不足に悩んでいる。50年間も継続する需要。しかも平均すると毎年5500億円規模。これだけ「長期安定的」な需要があれば、土木・建設会社が本気になって投資、人材確保に乗り出し、生産性向上のための技術も発展していくことになるはずだ。
 政府は橋の老朽化を「チャンス」としてとらえ、建設国債を発行し、自治体の橋梁メンテナンスを支援するべきだ。全額、中央政府が負担しても構わない。というか、そうするべきである。ところが、現実の日本政府は相も変わらぬ緊縮財政路線で、国土の基盤たるインフラの整備にすらカネを出し惜しむ。結果的に、我が国は次第に「橋の向こう側に行けない」発展途上国と化している。

 日本には、河川法で管理される一級河川が約1万4000もある。さらに、二級河川の数が約7000。2万を超す川により、土地や地域が「分断」されているのが日本の国土なのだ。日本は、河川に橋を架け、土地と土地を結び付けることで発展してきた。それが今や、橋の架け替えについて「財政」を理由に怠り、土地と土地が分断されている。わが国は、退化している。
 このまま橋の老朽化に真っ当な手を打たない状況が続くと、やがては土木・建設の供給能力がさらに毀損し、「おカネ(予算)があっても、もはや供給能力がないため、橋を架けられない」国へと落ちぶれることになるだろう。すなわち、発展途上国化だ。

 当然ながら、国会議員は議員立法等により特に対応が遅れている地方自治体の橋のメンテナンス、架け替えのための予算措置を講じるべきだ。ところが、財務省が異様なまでに固執する緊縮財政路線、すなわちプライマリーバランス(PB)黒字化目標が原因で、
 「橋の架け替えに予算を増やす。ならばどこの予算を削るのか? あるいは増税するのか?」
 といった、ばかげた事態になってしまうのだ。

 自然災害大国が公共投資をピーク('96年)の半分に減らした。需要を縮小させると同時に、指名競争入札の一般競争入札化や談合禁止により、土木・建設業界は次々に倒産。一時は6万社を超えていた建設業許可業者数を20%以上も減らしてしまった。まさに「国家的自殺」である。
 国家的自殺の背景にあるのが、'97年の財政構造改革法から現在のPB黒字化目標に至る、財務省の緊縮財政至上主義である。このままでは、わが国は橋が一つ、また一つと通行止め、廃棄となり(もうなっているが)、まるで中世のごとく国土が分断された状況に至る。

 デフレーションという総需要不足の国において、防衛、介護、橋梁メンテナンスなど、政府が継続的に支出(=需要)しなければならない分野がある。普通に需要に政府が支出をすれば、デフレ脱却が果たせる。それにも関わらず、財務省の緊縮財政至上主義によりできない。日本は財務省の「主義」により、「橋が通行止めになっていく国」と化してしまった。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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