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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 ★第296回 真の「将来世代の悲劇」

 財務省の「飼い犬委員会」と断言できる財政制度等審議会は、11月20日、2019年に向けた意見書を麻生財務大臣に提出した。審議会は「借金の返済負担を将来世代にツケ回ししている」と指摘し、将来世代が「悲劇の主人公」となると断じた。

 要するに、財政破綻論に基づく緊縮財政を「強化せよ」という話である。特に、高齢者医療や大学の予算削減(審議会は「予算改革」と呼ぶが)に注力するように求めた。

 とはいえ、話はまるで逆なのだ。そもそも、日本の赤字国債が増えているのは、デフレーションが継続し、税収が不足しているためだ。デフレの国は、物価と「所得」が共に下落していく。我々が「所得」から税金を支払う以上、デフレーション=税収減とならざるを得ない。結果、赤字国債が発行される。

 すなわち審議会が本気で赤字国債の発行を抑制したいならば、政府の「財政拡大」により需要を創出し、デフレギャップ(=供給能力―総需要)を埋めるしかないのである。審議会は’18年の財政運営について「借金を膨らませた」と表現しているが、とんでもない。安倍政権は財務省や審議会の望む緊縮財政を継続しており、結果的にデフレギャップが埋まらず、わが国のデフレ脱却は果たせていない。

 要するに、安倍政権が財務省や審議会が望むほど「強烈な緊縮財政」を強行していないからこそ、緊縮強化を求めているのだ。安倍政権の緊縮財政も問題だが、審議会は「それでも足りない」と主張しているのである。言葉を選ばずに書かせてもらうと、狂っている。

 デフレーションからの脱却は、民間主導ではできない。理由は、デフレで需要(市場)が縮小する環境下では、企業が設備投資に乗り出さないためだ。さらに実質賃金が下落するため、家計も住宅投資に踏み切らない。設備投資や住宅投資は「先送り」が可能なのである。そして、デフレ期の民間にとって、投資という需要を先送りすることが合理的なのだ。

 また、安倍政権は’14年の消費増税で、日本のGDPに占める割合が最も大きい個人消費という需要を潰した。消費税は「消費に対する罰金」であるため、家計は消費を減らすことが合理的になる。結局、デフレ脱却を主導できるのは政府しかないのだ。その政府が財務省の圧力で緊縮路線を突き進み、財政拡大や減税による需要創出には乗り出さない。挙句の果てに、
「まだまだ緊縮が足りない」
 と、審議会からクレームをつけられているというのが日本の現実なのである。

 とはいえ、財務省や審議会がどれほど情報を歪めようとも、我が国に「財政問題」など存在しない。何しろ日本政府の負債(主に国債)は100%日本円建てで、しかも量的緩和の影響で、日本銀行が45%超を保有しているのである。日銀は政府の子会社だ。日本政府は、子会社からの借り入れについて返済や利払いの必要はない(別にやっても構わないが、自分が自分に借金返済や利払いをすることになる)。

 そもそも、日本の財政が本当に危機ならば、国債金利が上昇しなければならない。ところが、現実は下図の通りだ。

 日本の中央政府(いわゆる「国」)および地方自治体の長期債務残高は、’86年には200兆円程度だったのが、’17年には1100兆円を突破した。審議会に言わせれば「クニノシャッキンが5倍になった! 破綻しないはずがない!」のだろうが、金利を見て欲しい。日本国債(十年物)の金利は、バブル期には6%を上回っていたにも関わらず、その後は急落。現在は「ゼロ」近辺で推移している。

 無論、日銀の量的緩和の影響もある。とはいえ、日本の国債金利は黒田東彦氏が日銀総裁に就任する’13年の前から低迷している。

 なぜ、財政破綻、財政破綻と騒がれる日本国債の金利がここまで低いのか。ちなみに、日本国債の金利は、世界でスイスに次いで低い。世界第2位の超低金利なのだ。

 「なぜ、日本国債の金利がここまで低いのか」と書いたが、実のところ理由は明白である。もちろん、デフレだからだ。デフレの国では、企業は設備投資をせず、銀行融資を受けない。また、家計もローンを組んでまで住宅を建てようとは思わない。

 銀行の仕事は、預金を集めることではない。というよりも、前回解説した通り、預金とは「銀行の貸し出し」により創出されるカネだ。銀行はカネを貸し出すことで、金利収入という「所得」を稼ぐことができる。銀行の仕事は「カネを貸すこと」なのだ。ところが、デフレの国では民間がカネを借りようとしない。結果的に銀行は政府にカネを貸す、つまりは国債を購入することで金利収入を得ようとするのだ。

 日本の国債金利の低迷は、わが国の財政破綻があり得ないことを示している。とはいえ、必ずしもいい話ではない。

 日本の金利低迷は、わが国がデフレで、民間の借り入れが細っていることを意味しているのである。

 さて、審議会の言う「将来世代の悲劇」である。将来世代が「悲劇の主人公」になるとは、財政の話ではない。日本の財政破綻はあり得ない。だが、このまま緊縮財政が継続すると、わが国のインフラは老朽化、防衛力も弱体化、社会保障制度も崩壊、教育も荒廃、科学技術も劣等国となり、日本は小国化する。小国化した日本国で暮らすことこそが、将来世代の悲劇だ。

 そして、財政破綻論の影響で、わが国はこのままでは普通に小国化し、将来世代の悲劇が実現することになる。我々の子供たち、孫、その先の子孫に「悲劇の暮らし」を送らせたくないならば、財政破綻論を潰さなければならない。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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