万博が開催されるのは、大阪湾に浮かぶ人工島、夢洲だ。1977年から埋め立て工事が始まった夢洲は、大阪の新たな産業拠点になる予定だった。しかし、バブル崩壊で利用者が現れず、一部が物流基地として使われる以外、ずっと空き地のまま放置されてきた。そのため大阪最大の“負の遺産”と呼ばれてきたのだ。
それが万博会場として利用できるのだから、大阪にとっては起死回生の大逆転勝利だ。しかし、問題となるのは、交通アクセス。現在、大阪中心部と夢洲は、バス便でしか結ばれていない。万博を開催するためのアクセスとしては圧倒的に輸送力が足りないのだ。そこで、現在中断している大阪メトロ中央線の夢洲への延伸工事が、ほぼ確実に再開されることになる。
ただ、万博の開催期間は、たった半年間。博覧会の終了後、そのままだと、乗客のいない地下鉄に大きな赤字が残されてしまう。そこで考えられたのが、カジノの誘致だ。カジノが立地すれば、地下鉄に恒常的な需要が発生する。だから、今回の万博開催は、夢洲へのカジノ誘致とセットなのだ。
カジノが立地すれば、大きな経済効果が生まれることは間違いない。だが、それを負担するのは、カジノの利用者だ。日本にはすでにパチンコや公営ギャンブルがあるのだから、カジノができても、特に心配することはないという意見もある。だが、カジノの射幸性は、他のギャンブルとは、比べものにならない。
私は一度だけラスベガスに行ったことがある。のめり込んでしまう自分の性格を分かっていたので、私は数万円分の現金だけを持って、カジノに向かった。
カジノは天国だった。無料の飲食物が大量にあり、無料のショーもあった。慎重に臨んだつもりだったが、私の持ち金は、きれいさっぱりなくなった。それくらいカジノは楽しいのだ。
カジノに行くのは、富裕層だから、庶民は関係ない。そう言う人もいる。しかし、そうではない。庶民が行くから、地下鉄を整備するのだ。そして、大阪駅から地下鉄でわずか30分の場所にカジノができたら、何が起きるのか。カジノに入りびたる大阪人が大量に生まれるのは間違いないだろう。
ギャンブルというのは、頭に血がのぼって、負けを取り返そうとするから、深みにはまる。だから、深みにはまる人は、アクセスのよいところに集中するのだ。
カジノの設置で、政府の税収は増え、地元の経済も潤う。そして、カジノの運営を担う外資系企業も大きく潤うだろう。しかしその裏側で、大阪の街が破産者であふれることになる。
2025年大阪万博のテーマは「いのち輝く未来社会」だ。華やかな万博の背後に、破産者が死屍累々というのは、何とも皮肉な話だ。それでも構わない、と政府は考えているだろう。カジノで破産する人は、自己責任ととらえているからだ。