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森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」 ★KINGの教訓

 KINGと呼ばれた銅子正人容疑者らが、2月13日に詐欺容疑で逮捕された。銅子容疑者が会長を務めるテキシアジャパンホールディングスは、出資者に月利3%という高い配当を提示して、架空の投資話を持ち掛け、1万3000人から460億円もの資金を集めたとみられている。

 しかし、そもそも年利換算で36%もの金利がつくはずがないし、「日本を元気にしよう」とか「社会に貢献しよう」などと、事業内容も抽象的で、意味不明だった。しかも、幹部を「ゴレンジャー」と呼び、配当を元気玉(もちろん出所はドラゴンボール)と呼んだ。そして、出資者が一般会員から昇格すると、「エバンジェリスト」になる。これも、本来の伝道者という意味ではなく、おそらく新世紀エヴァンゲリオンから採ったものだろう。つまり、コンセプトがパクリであるだけでなく、つぎはぎで、出来のよい詐欺とは到底言えない代物だったのだ。

 にもかかわらず、巨額の資金が集まった最大の原因は、広告塔を演じていた銅子容疑者に多くの投資家が疑似恋愛感情を抱いていたからだろう。その証拠に被害者の大部分が中高年女性だった。

 銅子容疑者は高校時代に天皇杯にも出場したサッカー選手で、いまでも筋肉質の素晴らしい肉体を持っている。さらにサングラスをかけて歌う姿は、エグザイルばりだ。だからKINGのライブイベントでは、Tシャツなどのグッズが、飛ぶように売れていたという。アイドルそのものだ。

 実は、日本のオタク市場のなかで、いま一番成長しているのがアイドル市場だ。矢野経済研究所の推計では、'17年度の市場規模は2100億円とみられている。なぜ、そんなことが起きているのか。私は疑似恋愛が、消費者を強く動かすようになったからだと思う。その疑似恋愛が引き起こす情動を悪用したのが、今回の投資詐欺だったのではないか。

 なぜ疑似恋愛の支配力が強まったのか。それは、本物の恋愛ができないからだろう。最近の日本は、オンリーユー症候群に取り憑かれている。既婚者の不倫はもちろん、独身者でも複数の相手と恋愛することは非難の対象となる。昔は自由恋愛が許されていた芸能人さえ、例外ではなくなっている。ところが、何故か疑似恋愛だけは非難の対象外だ。

 KINGに貢ぐより、本物の恋愛にお金を使うほうがずっとよいと思う。もちろん不倫をしろと言っているわけではない。しかし、パートナー以外の異性と、食事や遊びに行くぐらいはよいのではないかと思うのだ。

 亡くなった堺屋太一さんと昨年末にテレビ番組で共演した。「低迷する日本経済を活性化させるために何が必要ですか」という問いに、堺屋氏は「それは生涯恋愛を続けることです」と断言した。その通りだと思う。

 定型的な仕事をすべて人工知能やロボットがやる時代になれば、人間がやる仕事はクリエイティブなものしかなくなる。だが、創造性というのは、自分自身がドキドキしていなければ生まれない。それを引き起こす最大の要因が恋愛なのだ。実際、生涯恋愛を続けるイタリア人は、高付加価値品を作り続けている。生涯活躍社会は、生涯恋愛社会である。堺屋氏にはもっと長生きをして、そのことを発信し続けてもらいたかった。

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