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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第336回 アベ・ショックの“後”

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提供:週刊実話

 本連載で散々に批判した通り、厚生労働省(あるいは「安倍政権」)は、2018年の実質賃金の対前年比を「高く見せる」ために、調査対象の企業サンプルを入れ替え、「賃金が高い企業が入った2018年のサンプルと、入れ替え前の2017年のサンプル」を比較し、「2018年6月が対前年比+2.5%! 21年ぶりの高い伸び率!」などと報道させる「統計詐欺」に手を染めた。

 ちなみに、筆者は「異なるサンプル同士」を比較し、実質賃金をかさ上げしたことを「統計詐欺」と批判したわけだが、なぜか、「三橋は賃金統計のサンプル変更を批判している」と、猛烈な攻撃を浴びる羽目になった。言ってもいないことを、言ったことにして攻撃し、対象者の信用をおとしめる、典型的な「ストローマン・プロパガンダ」であった。

 それはともかく、さすがに「統計詐欺」は問題となり、衆議院調査局が’18年の賃金統計を再調査していたのだが、8月5日に、2018年実質賃金が厚生労働省発表の対前年比+0.2%ではなく、実際には▲0.4%だったという予備的調査結果を公表した。

 また、2019年の賃金統計は、統計詐欺の影響が消え、サンプル変更後の企業同士を比較しているわけだが、実質賃金が何と1月から6月まで、6カ月連続で対前年割れとなってしまった。日本の実質賃金は、2019年上半期は1度も前年を上回っていないのである。

 実質賃金の低下とは、「稼ぐ所得で買えるモノやサービスが減っていく」という意味である。要するに貧困化だが、貧困化する日本国民は、もはや消費税増税前の駆け込み消費すら「不可能」な有様だ。実質賃金が下がっている以上、当たり前なのだが。

 菅義偉官房長官は8月2日の記者会見で、10月の消費税率10%への引き上げにあたり、「駆け込み(需要)というのはみられていない」との認識を示した。

 国民が貧困化し、駆け込み消費“すら”できない、と理解するのではなく、「駆け込み消費がない以上、消費増税後の需要の落ち込みもそれほどない」という話なのだろうか。

 さすがに、経済界も悲鳴を上げ始めた。経済同友会の櫻田代表幹事は、8月3日の記者会見で、「増税よりも消費意欲が伸びていないことが心配だ」と述べ、消費税率の引き上げよりも、将来不安を背景とした消費意欲の弱さに懸念を示したのである。消費に対する罰金を増やすことに賛成しておきながら、いや、だからこそ、「消費税増税より、消費意欲が伸びていないことが問題」と言ってのける。経済同友会は、前代表幹事の小林喜光氏が4月に、「消費税率を10%台後半に引き上げる議論に早く着手すべきだ」と発言するほどの財務省の「飼い犬」だ。消費税増税を批判できないため、増税後の消費の落ち込みを予見しつつ、「年金不安で消費意欲が伸びていないため。増税のせいではない」と、言い訳をするための布石を打っているとしか思えない。あるいは、消費税増税ではなく、年金不安のせいで消費が縮小しているとなると、増税後に、「年金など社会保障の不安を解消するために、更なる消費税増税!」のレトリックが使える。

 いずれにせよ、10月1日以降の「アベ・ショック」は、もはや確定だ。消費税増税、五輪不況、さらには米中覇権戦争、ドイツ経済の失速、ブレグジットによる外需縮小。日本が「アベ・ショック」に突入することは、残念ながら避けられない。

 自民党が政権を失う、あるいは政権が倒れるのは、決まって「経済ショック」の後である。細川政権や鳩山政権は、バブル崩壊やリーマン・ショックという“危機”の後に誕生した。橋本緊縮財政による経済デフレ化というショックは、政権交代こそ引き起こさなかったものの、橋本内閣は参院選で敗れ、倒れた。

 改めて振り返ると、橋本政権の時代は、緊縮派が敗れても、自民党内で「財政拡大派」に“政権交代”できていたのだ。リーマン・ショック後の麻生政権も、正しく財政拡大政策に転じた(とはいえ、民主党への政権交代は避けられなかったが)。

 ところが、今回はPB黒字化目標を掲げる安倍総理が、自民党内で相対的に財政緊縮派という“最悪”の状況なのである。アベ・ショック後のポスト安倍と目されている政治家は、菅官房長官、小泉衆議院議員、岸田政調会長、石破元幹事長などなど、緊縮財政派、構造改革派だらけだ。

 しかも、野党は野党で、PB黒字化を目指す「超緊縮」の安倍政権を「放漫財政」と批判する。まるで、できの悪い戯画を見ているようである。

 アベ・ショック後、自民党内の財政拡大派の勢力が政権を握れるならば別だが、少なくとも数年は難しいだろう。自民党の国会議員は、財務省の洗脳が完了した緊縮財政派だらけであり、アベ・ショックは「’19年10月」から始まるのだ。自民党内の財政拡大派が勢力を拡大する時間的余裕はない。

 結局のところ、アベ・ショック後に「自民党政権」ではない、反緊縮勢力が政権を握れるか、せめて政治的パワーを持ち得るかに、すべてがかかっているのだ。政権交代にまでは至らなかったとしても、国会でMMT(現代貨幣理論)に基づく正しい財政やデフレ対策の議論が始まれば、希望は出てくる。

 そのためには、まずは国民や政治家が正しく「現代の貨幣」を理解しなければならないのだ。

 要するに、MMTが説明した「現実」を国民や政治家が共有し、財政破綻論や緊縮財政至上主義からの脱却を、政治的に実現しなければならないのだ。現代の日本国民には、財政主権がない。事実上、財務官僚が独占している財政主権を、日本国民は取り戻さなければならないのだ。

 というわけで、先日、東洋経済新報社から刊行した書籍『MMT現代貨幣理論入門』の著者である、MMTの中心的な経済学者ランダル・レイ教授を招待し、第2回となる「MMT国際シンポジウム(主催:京都大学)」が10月に開催される予定となっている。読者の皆様も、ぜひ、日本におけるMMT普及のために協力、あるいは「参加」して欲しい。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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