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行くも退くもいばらの道 東芝メモリー事業売却の迷走

 原子力メーカー・米ウェスチングハウス買収の失敗で1兆円規模の負債を抱え、経営破綻寸前まで追い込まれていた東芝が経営再建の柱と位置付けていたメモリー事業の売却が、ここにきて足踏み状態となっている。そうした中、東芝内部や政府筋から「売却を中止すべき」との反対論も噴出し、迷走状態に陥り始めている。
 「そもそも現在の東芝の9割を稼ぐ『東芝メモリ』の売却は、東芝の看板を残すための一か八かの荒業。しかし、次は何で稼ぐかという明確な見通しもなく、ただ冠を残すだけに執着しての動きでした」(メガバンク関係者)

 東芝にとってのメモリー部門は、2016年に稼ぎ頭だった医療部門をキヤノンに売却してから、虎の子の事業だった。しかし、金融機関の要請に押される形で昨年9月、紆余曲折を経て米投資ファンド、ベインキャピタルを中心とする日米韓の企業連合に2兆円で売却する契約を結んだ。
 「ところが、昨年暮れに東芝が第三者割当増資をしたところ、60社が応じて6000億円を集め、債務超過が解消。その頃から、妥当な売却価格が4〜5兆円と言われていたメモリー事業を格安で売却する必要はないとする声が、東芝内部や東芝を支える銀行団の間から出始めたというのです」(同)

 『東芝メモリ』の売却には、半導体を扱う主要各国の独占禁止法の審査を通過することが大前提となる。
 「独禁法審査は日米では順調に終わりました。ところが問題は中国で、'17年暮れに審査が始まったが、一般的な審査期間の4カ月をすぎた4月に入っても審査完了のメドが立っていないのです」(同)

 中国の審査がこれほど時間がかかるのはなぜなのか。
 「実は、『東芝メモリ』を最も欲しがっていたのは、先進国と比較して半導体技術が大きく出遅れている中国。そのため以前は米半導体企業買収を何度も仕掛けたが、当時の米オバマ政権に阻止されていた。そこで矛先を変え『東芝メモリ』を狙ったが、これも日米の強い反対論で頓挫しているのです」(業界関係者)

 中国としては、今回の日米韓連合への売却は阻止したい。あわよくば中止に追い込み、再度、何らかの形で手に入れたい思惑が働いているとも言われている。加えて、ここへきての米中貿易摩擦が緊迫の度を増していることも、審査をさらに遅らせているという。
 「一方の東芝は、昨年末の増資で債務超過が是正され状況が一転し、'18年3月期の連結最終損益(米国会計基準)を5200億円の黒字と、従来予想していた1100億円の赤字から大幅に引き上げた。これで一気に経営の自由度が高まり、銀行団の間でも売却中止に対する容認論が出始めたという。現時点では、契約を解除したとしてもまだペナルティーが課せられない。さらに年間1000億円の営業利益を持つメモリーに代わる新しい柱が見つからないことが、審査の遅延をこれ幸いにと売却中止に拍車をかけているようなのです。ただし、逆に売却中止は絶対反対という声も依然強いというのも事実」(同)

 売却中止への反対が根強いのは、東芝のメモリー事業が将来も稼ぎ頭であり続けるか不透明だからだ。
 「というのも、東芝のメモリー事業が韓国のサムスン電子などと今後も対等に競争し続けるには、年間3000億円規模の設備投資が必要とされる。さらに半導体が使われるスマートフォンなどの需要が落ち込んだ場合、財務体質を急激に悪化させるリスクがあり、そうなれば東芝本体が倒れてしまう。また、一時的に財務状況が保たれたとはいえ、『東芝メモリ』の売却で2兆円の資金を得た場合は、成長投資や銀行への返済に資金を振り向ける計画となっている。そのため売却中止や中国審査が滞る状況が長引けば、財務戦略に大きな影響が出る。売却反対の声の拡大を抑えるためにも、経営陣としては6月の株主総会前に売却に踏み切りたいところでしょう」(経営アナリスト)

 ただし、売却できたとしてもやはり新たな稼ぎ頭が見つからないという別の壁は、依然、残り続ける。
 「東芝が手掛けるエレベーターや鉄道などの社会インフラ事業は、すでに国内市場が飽和状態になっている。また、'13年に米テキサス州のフリーポートLNG社と契約を結び、来年から開始予定の火力発電所に使用するLNG(液化天然ガス)販売事業も前途多難。事業期間は20年で仕入れから液化までを手掛けるが、産油国の増産などで原油価格が下落してLNG価格も低下の一途。開始前から暗雲が漂っているのです」(同)

 このように東芝は、メモリー事業売却でも中止でも難題山積み。4月からは元三井住友銀行副頭取の車谷暢昭氏をCEOに迎え新生東芝を目指すが、いばらの道は続きそうだ。

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