バチカンと中国は、司教任命をめぐって長年対立してきた。無神論を掲げる中国政府は、1951年にバチカンと断交。その後は、共産党政権が創設した官製組織「中国天主教愛国会」が、独自に中国国内の司教を任命していたのだ。
在日中国人ジャーナリストが解説する。
「同会から任命を受けるには、ローマ法王に忠誠を誓う前に、共産党政権の忠実な僕でなければなりません。このため、愛国会系の司教と、ローマに忠実な『地下教会』の司教の間で、中国は2分化されてきました」
それが、9月22日に暫定合意を結び、一部の愛国会系司教の正当性をバチカンが認めたのである。
一見、平和的な歩み寄りだが、双方には思惑がある。
「バチカンは欧州で唯一、台湾と国交を持つ国ですから、中国はバチカンに接近することで、両国の国交に揺さぶりをかける狙いがあります」(同)
さらに、世界中の情報を収集する目的もあるという。
「バチカンの諜報機関であるサンタ・アリアンザは、元CIA長官のウイリアム・ケーシーが『世界で最も有能な諜報機関』と認めたほど。バチカン銀行も、世界中の金融情報を手に入れることができる。中国は、これらの情報にアクセスできることになります」(国際ジャーナリスト)
バチカン銀行は、慈善活動を装いながら資金洗浄に一役買い、実際には独裁者に資金を提供することになった黒歴史がある。
一方、お膝元の欧州で宗教離れが進むバチカン側にも、人口約14億人の中国を足場に、アジアで信者増を狙う目的が見え隠れする。
フランシスコ法王は、今回の暫定合意を「中国のカトリック教会が統合できるチャンス」としているが、裏にはドロドロとした利害関係も横たわっているのだ。このことを知る中国の地下教会系の信者たちは、「われわれはローマ法王から見捨てられた」と嘆いている。