しかし厚生労働省は、フグの肝には猛毒のテトロドトキシンなどが含まれるおそれがあり、肝を食べて死亡した例もあることから、種類にかかわらず食品衛生法で販売と提供を禁じている。毒のある部分を処理してフグを売るには都道府県などに届け出がいる。
販売したスーパーは1998年に「ふぐ処理施設」の設置届を県に出していたばかりか、2年以上のフグ処理の経験があり、食べられる部位を区別する実技試験に合格した専門職の「ふぐ処理師」も置いていた。それでもアウトになったわけだ。
「このスーパーは『ヨリトフグの肝臓は無毒だから売っていいと思い、処理過程で肝を除くことなく20年にわたり売っていた』と県に話したことからダメ出しされたのです。ただこれまで、客が毒にあたったことは一度もありませんでした」(地元記者)
フグの肝を食べる習慣は、愛知県だけではない。
「宮崎県の特産品『シロサバフグ』もかつては肝も食べていたのですが、微量の毒が検出されて以来、売り場では肝が取り除かれて売られています」(グルメライター)
ある意味、厳しい法が食文化を“冒涜”しているようにも見える。ユッケやレバ刺しが禁止されたのもその例だが、人命には代えられない。食品は安全であるべきという物言いに異を唱える人はいないが、そうであるならば一体どういうものを安全と言うのか。
「どんなに体にいいものでも食べ過ぎれば毒になるし、普段口にしているもの、たとえばジャガイモの芽やタマネギも動物に対して毒や中毒性があります。誰もが気になる“食の安全”ですが、何をもって安全だと判断するのかは非常に難しい問題です。食品添加物や残留農薬など意図的に食品に加えられるものに関しては、必要以上に厳しく安全性を確保していますが、一般的な食品については、添加物や農薬のように検査したり安全性試験をしたりして食べているわけではありません。普通の食品を厳しく審査していたら何も食べられなくなってしまいます」(同・ライター)
つまり愛知県や宮崎県のような「経験則」による判断も、ひとくくりに違法とは言えないのではないか。
食欲の秋だからこそ、あらためて考えたい話である。